6月はPRIDE月間でした。
近年では、多くの日本企業がレインボーカラーのロゴを掲げたり、LGBTQ+に関する情報発信やイベントへの協賛を行ったりするようになりました。
その一方で、「PRIDE月間のあと、何を続ければよいのだろう」と悩む担当者の方も少なくありません。
私も先日、たまたま入った町の定食屋さんで、レジ横に凛と佇むレインボーフラッグを見つけました。「LGBTQ+フレンドリー」を大きく打ち出しているお店ではなく、地元住民向けのこじんまりしたお店です。それでも、その旗がそこに置かれるまでには、きっと誰かの思いや対話があったのだろうと想像すると、なんだか胸が温かくなりました。
ほんの数年前までは「LGBTQ+について社内で話題にすること自体が難しい」という企業も少なくなかったように思います。そこから考えると、「PRIDE月間」という言葉が企業の中に定着し、毎年6月の定例的な取り組みとして根付いてきたことは大きな前進ではないでしょうか。
企業の発信をきっかけに、初めてLGBTQ+について知る人もいます。イベントで企業ブースを訪れたり、ノベルティを受け取ったりしたことを入口として、当事者が置かれている状況や社会課題について自分で調べてみる人もいます。
きっかけは必ずしも強い問題意識である必要はありません。まず知ること。そして関心を持つこと。そうした入口が増えること自体に、大きな意味があると私は思っています。
一方で、今年のPRIDE月間を通じて、改めて考えさせられたこともありました。
「PRIDEとは、いったい誰のためにあるのだろう。そして企業は、その中でどのような役割を果たせるのだろう」という本質的な問いです。
Tokyo Prideで感じた「啓発」と「居場所づくり」の両立
今年、私は企業でDEIを担当する数名の方と一緒にTokyo Pride2026を訪れました。
一緒に参加した企業担当者の方々は、以前からTokyo Prideに関心を持ち、参加してみたいと思っていたそうです。しかし、ご自身は当事者ではなく、またメディアやSNSでは華やかな場面が取り上げられることが多いことから、「自分が参加してよいのだろうか」という気持ちがあり、これまで参加をためらっていたと話していました。さらに、所属企業としてもTokyo Prideへの参加実績がなかったため、一人ではなかなか足を運べなかったそうです。そこで、せっかくであれば一緒に見て回りましょうと、ミニツアーのような形で案内しました。
参加された方々からは
「こんなにたくさんの当事者やアライがいることを初めて実感した」
「自社の取り組みの意義を改めて感じた」
「とても楽しかった」
という前向きな感想をいただきました。
その一方で、
「人の多さと情報量に圧倒されてしまった」
「一人では正直、来られなかったと思う」
という声もありました。
会場には多種多様な企業や団体が出展し、それぞれが思いを込めてメッセージを発信しています。しかし、約27万人が参加する大規模イベントならではの活気の中、「この企業はこれまでどんな取り組みをしてきたのだろう」「この企業はどのような思いを持ってここに出展しているのだろう」といった背景まで理解しようとすると、思った以上にエネルギーが必要だったようです。
私が横で説明をしていたからなんとか理解できたけれど、一人だったらよく分からないまま疲弊して帰っていたかもしれない。そんな本音を聞きながら、私は思わず立ち止まってしまいました。
決してTokyo Prideや大規模イベントを否定したいわけではありません。
むしろ、現在のPRIDEイベントがこのような形になっている背景には十分な理由があると思っています。
日本では、LGBTQ+に関して、同性婚法制化や理解増進法の運用をはじめ、社会全体で議論と理解を深めていく必要がある喫緊のテーマがまだ数多く残されています。その中で、マイノリティの声を社会へ届けるためには、多くの人に関心を持ってもらい、理解者や味方を増やしていくことが欠かせません。
その意味では、近年のPRIDEイベント、とりわけ都市部の大規模イベントが「一般市民への理解啓発」を強く意識した形へ変化していることには、大きな意義があるように思います。
実際に私自身、PRIDEイベントで企業ブースを訪れた方が、SNSでその日受け取ったノベルティの写真とともに
「今日はLGBTQ+のイベントに行ってきた」
「社会にはこんなに多くの当事者がいることを知った」
「もっと理解が広がってほしい」
といったメッセージを発信しているのを目にしたことがあります。
もしかすると、その方の来場のきっかけは好きなブランドや化粧品だったのかもしれません。しかし、その体験を通じて関心を持ち、自分自身の言葉で発信するようになったのであれば、それは理解啓発として大きな意味を持つのではないでしょうか。
きっかけは必ずしも理想的なものでなくても構わない。
まず足を運び、知り、考えること。その入口として、大規模イベントが果たしている役割は決して小さくないように思います。
ただ、その一方で改めて考えたいことがあります。
それは、PRIDEイベントには本来二つの役割あるのではないか、ということです。
一つは、LGBTQ+当事者に対する偏見や差別の解消を目指し、社会に向けて理解を広げる場。
そしてもう一つは、当事者が安心して集い、自分らしくいられる場であり、人権や権利が尊重される社会の実現を発信する場です。
例えば、「初めてLGBTQ+について知る人」に参加してもらおうと思えば、楽しさや分かりやすさ、参加しやすさが大切になります。
一方で、「当事者が安心して過ごせる場」を目指すのであれば、同じ経験を持つ人同士が落ち着いて語り合えたり、自分らしく振る舞えたりする環境も大切になります。
どちらも大切な価値です。
ただ、この二つは時として異なるニーズを持っています。
初めて参加するアライにとっては、賑やかで開かれたイベントの方が参加しやすいかもしれません。一方で、当事者の中には「人が多すぎて疲れてしまう」「もっと落ち着いて交流できる場がほしい」と感じる方もいるでしょう。実際、今年はある当事者団体が、安らげる場所を求めて、イベント広場ではなく隣接する代々木公園の方にシートを敷いて集っている光景も見かけました。
どちらが正しいという話ではありません。
PRIDEイベントには常に「啓発」と「居場所づくり」の両方の視点が必要なのだと思います。
また、こうした課題は運営側も十分に意識しているのではないかと感じています。
例えばTokyo Prideでは、パレードやフェスティバルだけでなく、音楽やパフォーマンスを通じて、クィアコミュニティが長年育んできた文化やエネルギーに触れることができるPride Night、若い世代が安心して集えるYouth Pride、クィアな表現や文化に触れるQueer Art Exhibition、人権課題について学び対話するHuman Rights Conferenceなど、多様なプログラムが用意されています。
華やかな祝祭の場だけではなく、文化やコミュニティ、学びや対話の場を併せて提供することで、多様な参加者のニーズに応えようとしているようにも見えます。
だからこそ重要なのは、「啓発か、居場所づくりか」という二項対立ではなく、それぞれの価値を認めながら、どのようなバランスを目指していくかを考え続けることなのかもしれません。
企業がPRIDEイベントに参加する意味を改めて考える
ここまで読んだ企業の推進担当者の方は「とはいえ、企業としてはイベントでは啓発をメインに据えるしかない」とジレンマを抱えているかもしれません。
実際、企業によるPRIDEイベントへの協賛や出展は、LGBTQ+への理解を広げ、自社の取り組みを発信する貴重な機会です。
企業には多くの人へメッセージを届ける力があります。
だからこそイベントでは、
「どのような取り組みを行っているのか」「どのような思いで活動しているのか」
を発信することに意識が向きやすくなるのでしょう。
もちろん、それは非常に重要な役割です。
一方で、PRIDEイベントにはもう一つの大切な役割があります。
前章でも述べた様に、当事者が安心して集い、自分らしく過ごせる場であるということです。
以前、ある当事者の方がこんなことを話してくれました。
「一年に一回、このイベントでだけ私は本当の自分になれるんです。仲間にも出会えるし、自分を隠さなくていい場所なんです」と。
社会への発信という視点から見ると、PRIDEイベントは理解啓発の場として語られがちです。
しかし同時に、当事者にとっては「自分らしくいられる数少ない居場所」でもあります。
そう考えると、企業がイベントに関わる方法も少し広がって見えてくるように思います。
もちろん、企業がPRIDEイベントで当事者の居場所そのものをつくる必要があるということではありません。
むしろ大切なのは、「広く社会に向けて発信する企業」として参加するだけでなく、「イベントに参加している当事者の存在にも配慮している企業」として参加する視点を持つことではないでしょうか。
実際には、PRIDEイベントを訪れる当事者の方々は、企業ブースを見ながら単にノベルティを受け取るだけではなく、「この企業は本当に自分たちのことを考えてくれているのだろうか」「職場として安心して働ける環境なのだろうか」といった視点でも企業を見ています。
だからこそ企業にとってPRIDEイベントは、自社の取り組みを発信する場であると同時に、直接当事者の声や期待に触れ、自社の取り組みを見つめ直す機会でもあるのではないでしょうか。
例えば、
・当事者にとって「自分らしくいられる場」を作れたかという視点を持つ
・当事者の声に耳を傾ける機会を設ける
・安心して立ち寄れる対話の場をつくる
といった取組みも一案です。
そしてそこで得た気付きが、「自社の中にも安心して自分らしくいられる環境をどうつくるか」を改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。
PRIDE月間後も続けたい、企業のLGBTQ+施策
私はここ数年、企業のLGBTQ+施策に携わる中で、多くの担当者が本当に悩みながら取り組みを進めていることを知りました。
担当者の異動、組織方針の変化、社会情勢の影響など、さまざまな条件が変わる中で、新たな施策を企画し、社内の理解を広げ、取り組みを継続していくことは決して簡単なことではありません。そのような中で私が大切だと思うのは、「何をやるか」だけでなく、「どう続けるか」という視点です。当事者やアライの方々は、企業の取り組みを想像以上によく見ています。
派手な施策よりも、「今年も続いている」という事実が安心感につながることも少なくありません。
一方で、企業活動には当然ながら限りあるリソースがあります。そのため、毎年規模を拡大したり、新たなPRIDE月間の施策を打ち出したりすることが必ずしも正解とは限りません。
むしろ気をつけたいのは、一時的に大きな取り組みを行った結果、その後継続が難しくなってしまうことです。
企業側からすると自然な経営判断であっても、取り組みの縮小が社会的な逆風のタイミングと重なると、「外部からの批判や圧力を受けて後退したのではないか」と受け取られてしまう場合もあります。
もちろん、実際にはそんなことはないケースの方が多いと思います。
だからこそ大切なのは、一年きり、一か月きりの大きな花火を打ち上げることではなく、自社らしく続けられる形を見つけ、継続しながら少しずつアップデートしていくことなのだと思います。
例えば、
・LGBTQ+当事者やアライがつながれる社員コミュニティをつくること
・匿名で相談できる窓口の存在を伝え続けること
・アライステッカーやアライバッジを活用し、相談しやすい人を可視化すること
・管理職向けに、制度だけでなく日常の対話やマネジメントをテーマとした研修を行うこと・小さな勉強会を続けること
・相談窓口の存在を伝え続けること
・毎年PRIDE月間にメッセージを発信し続けること
・地域コミュニティとのつながりを維持すること
一つひとつは決して派手ではないかもしれません。しかし、そうした積み重ねが「この会社は一年を通じて私たちに向き合ってくれている」という信頼につながっていくのではないでしょうか。
PRIDE月間を「祝う」から「つながる」へ
PRIDE月間は、レインボーカラーを掲げることだけがゴールではありません。
その先に対話が生まれたか。
誰かが安心して働けるようになったか。
新たなつながりが生まれたか。
PRIDE月間後の施策につなげていけたか。
その積み重ねこそが、インクルージョンにつながっていくのではないでしょうか。
実は、そのような「つながり」を実感しやすい場は、大規模な都心のイベントだけではありません。
地方のプライドイベントには、大規模イベントとはまた違った魅力があります。
参加者同士の距離が近く、運営者や出展者とも自然に会話が生まれる。初めて参加する人でも比較的入りやすい温かみがあり、当事者もアライも肩書きを超えて交流できる場が少なくありません。
大規模イベントには、社会全体へ強いメッセージを届ける力があります。
一方で、地域イベントには、人と人との関係性を育み、安心できるコミュニティをつくる力があります。
どちらが良い・悪いではなく、それぞれが異なる役割を担っているのだと思います。
そして企業もまた、協賛や出展という形や、地域コミュニティとの連携や交流の場づくりを通じて、そうした活動を支えることができます。
社会への啓発と、当事者が安心してつながれる場づくり。
その両方に関われることは、企業だからこそ持てる可能性の一つかもしれません。
LGBTQ+施策は、PRIDE月間だけで完結するものではありません。
PRIDE月間は6月限定の単発的なイベントではなく、企業が自社らしい形で多様性と向き合い、社員や地域社会とのつながりを育んでいくためのきっかけでもあります。
私たちも、企業の皆さまが無理なく、そして継続的に取り組みを進められるよう、研修や制度整備、コミュニティづくり、社内啓発などを通じて実装支援の伴走しています。
PRIDE月間をきっかけに、「次に何をすればよいか」と悩まれている方は、ぜひ情報収集の一つとしてご相談ください。
執筆者:ししまる
IT中堅企業の人事としてDEI施策全般を主導する傍ら、社内外でLGBTQ +の支援活動にも従事。
企業内担当者として、さらにイチ当事者としての目線からも、自分らしく働ける組織づくりについて発信します。