近年の日本社会において、職場における多様性の尊重と誰もが活躍できる環境づくりへの期待度は高まりつつあります。同時に、LGBTQ+に関する理解が社会全体で進むほど、自身のセクシュアリティについて悩みを抱える社員が、上司や人事部門に打ち明けるケースも増えていくと考えられます。
もし、LGBTQ+の同僚や部下からカミングアウトを受けたら、どのように対応するのがよいのでしょうか?
カミングアウトは、当事者にとって非常にデリケートな問題です。自分には関連のないことだと考えずに、カミングアウトを受けるかもしれない立場として、あらかじめ適切な対応を知っておく必要があるでしょう。
本記事では、LGBTQ+のカミングアウトとは何かを解説し、職場でのカミングアウトを受けた際の具体的な対応方法をお伝えします。LGBTQ+当事者の人々が自分らしく働ける職場を作るためのヒントを探しましょう。
カミングアウトとは
カミングアウト(coming out)とは、自身のセクシュアリティやジェンダーアイデンティティなど、今まで公にしていなかった個人的な事実を他者に打ち明けることを指します。
この言葉は「カム」と略して使われることも多く、「カムする」という表現を使用することもあります。
たとえば、「友達にカムした」「家族にカムしようと考えている」といった使い方をします。以下がカミングアウトの一例です。
- 「私はレズビアンです」
- 「私はゲイです」
- 「私は生まれたときの性は男性でした」
- 「私は無性愛者(アセクシュアル)です」
いっぽうで、自身のセクシュアリティやジェンダーアイデンティティを生涯公表しない人もいます。こういったカミングアウトしていない人、またそういう状態のことを「クローゼット」と言います。
これは「クローゼットの中に隠れている」という比喩から来ています。LGBTQ+当事者が自身のセクシュアリティについてカミングアウトしない理由の一例として、以下が挙げられます。
- 差別や偏見への不安
- 家族や友人との関係が壊れることへの恐れ
- 職場や学校での立場が悪くなることへの懸念
- 社会的な受け入れへの不安
- 適切な相談相手が見つからない
- 職場や学校でカミングアウトする必要がない
カミングアウトは個人の判断に委ねられます。カミングアウトを「するかしないか」、「いつするのか」、「誰に対してするのか」については、LGBTQ+当事者の状況や心の準備に応じて異なるということを知っておきましょう。
ゾーニングとは
ゾーニングとは、カミングアウトする範囲のことを指します。
「区分、区画する」という意味の英語が由来です。LGBTQ+当事者の多くは、自分のなかでゾーニングをしながら、カミングアウトの範囲をコントロールしています。
たとえば、「親友にだけ打ち明けよう」「身近な人にはカミングアウトしているが、職場では隠しておこう」など、さまざまなケースがあります。自分のアイデンティティや性的指向についてどの程度、他者に共有するかを線引きしています。
職場におけるカミングアウトの状況
2024年に弊社が実施した「LGBTQ+有職者1万人調査2024」によると、職場におけるカミングアウトの状況は、有効回答として集計が行われた10,000名の回答者のうち、「(上司・部下・同僚から)カミングアウトされたことがある」と答えた方は全体の約6.1%という結果でした。年齢層やセクシュアリティごとのカミングアウト率は異なるものの、特に職場の関係者にはカミングアウトをためらう傾向が高いという結果がでました。
セクシュアリティによるカミングアウト率
セクシュアリティによるカミングアウト率で、全体のおよそ半数を占めるのはトランスジェンダーという結果が出ています。
トランスジェンダーである場合、ホルモン治療の関係で外見にも変化が現れたり、職場の服装や利用設備の関係で、言わざるを得ない状況も出てくることが理由のひとつといえるでしょう。
また、レズビアンやゲイの当事者においては、パートナーの有無について申告すると社内の制度を利用できる場合があります。ほかにも各種手当を受けることが可能になったり、緊急連絡先の相手に登録することで、業務中に緊急度が高い事案が起こった際に、会社からパートナーに知らせることができる、というメリットも企業によってはあります。
カミングアウトの心理
カミングアウトの心理とはどのようなものでしょうか。当事者のなかでもカミングアウトするかしないかのスタンスは人それぞれです。カミングアウトは、意思をもって自ら行う場合と、したくてもできないのは雲泥の差です。
カミングアウトした理由と、カミングアウトしていない理由を詳しく見ていきましょう。
カミングアウトをした理由
カミングアウトをした理由はどのようなものでがあるでしょうか。弊社が実施したLGBTQ+当事者への調査によれば、
- 自分らしく働きたかったから
- 職場の人と接しやすくなると思ったから
- 性的マイノリティに理解がある職場だと思ったから
- ホルモン療法や性別適合手術を受けることになったから
- トイレや更衣室など、施設利用上の配慮を求めたから
という理由でした。
カミングアウトによって、職場の同僚とのコミュニケーションがスムーズになるという期待もあります。自分のアイデンティティをオープンにすることで、他者との接触が自然になり、誤解や距離感が減少します。
特に、性の多様性について理解のある職場では、カミングアウトが人間関係を深める一因となることが多い傾向にあります。このオープンな関係性が、チームワークの向上や職場の雰囲気を良くすることにも繋がります。
また、ホルモン療法や性別適合手術を受ける予定があることも理由のひとつでしょう。身体的な変化が生じた場合、周囲にその理由を説明する必要が出てきます。
特に職場環境では、医療的なサポートや理解が必要となることが多いため、事前にカミングアウトをしておくことで、職場の人々の理解を得やすくなります。
これにより、手術や療法の過程でのサポート体制を構築しやすくなり、より安心して治療を受けやすくなります。
トイレや更衣室の利用に関する配慮が必要な場合もあります。性自認に基づいて、適切な施設を使用することができるよう、職場での理解を求めるためにカミングアウトすることを選ぶ場合もあります。
このような配慮が実現することで、職場での安全感が増し、快適に業務を遂行できるようになることも考えられます。
また、カミングアウトを通じて、施設の利用に関するガイドラインやポリシーの整備が促進されることもあります。
カミングアウトをしない理由
反対に、カミングアウトをしない理由はどんなことだと思いますか?
こちらも弊社が実施した調査によれば、
- 仕事をする上で、性的マイノリティであることは関係ないから
- 職場の人と接しづらくなると思ったから
- 性的マイノリティについて差別的な言動をする人がいるから
- 配慮してほしいことは特にないから
- 性的マイノリティに理解がある職場だと思えなかったから
という意見が挙がりました。
性的マイノリティであることは関係ないと答えた人の理由は、仕事は専門的な能力やスキルに基づくものであり、性的指向や性自認はその評価には関係ないと考えています。
「自分の職務に影響を与えないため、わざわざ言う必要はない」と感じることがあるでしょう。この視点からみると、性的マイノリティとしてのアイデンティティを職場で明らかにすることは、仕事において必要ない情報であり、あえて他者に伝える意味がないと判断する場合も多くあります。
また、カミングアウトすることで、職場の同僚との関係が変わるのではないかと懸念する声も見受けられました。「カミングアウトしたら、周囲の人が自分をどう見るか不安だ」という気持ちからカミングアウトを避けることがあります。
特に、親しい関係を築いていた同僚との距離が生まれることを心配するあまり、自己開示をためらい、カミングアウトを選択しない方が安心感を得られると考えることがあります。
カミングアウトを受けたときの対応
カミングアウトを受けたときの対応で、何が正解なのでしょうか。
実のところ正解はありません。カミングアウトの内容によるかもしれませんが、難しく考えすぎる必要もありません。
大事なことは、無関心かつ過剰でもない「さりげない配慮」や「個として向き合う」姿勢を持つことです。もちろん、相手を特別扱いをする必要はありません。普段通りの会話を行いながら、相手が安心できるような態度を示すことが大切です。
たとえば、何か特別な反応を示すのではなく、「ありがとう、話してくれて」「そうなんだね」など、受け止める気持ちや姿勢を表すことがポイントとなります。
また、相手がカミングアウトを行ったことを受けて、「何か困ったことがあれば言ってね」というサポートを示す言葉をかけることが大切です。相手がどのようなサポートを必要としているのかはそれぞれ異なりますので、具体的にどうするかを相手に尋ねることで、必要な支援を提供できるでしょう。
カミングアウトの内容は非常に個人的なものであり、他の人に無断でその情報を共有することは避けましょう。相手の意向を確認することで、その情報をどのように扱うべきかを理解し、プライバシーを守る姿勢を示すことが信頼関係の構築につながります。
カミングアウトは一度限りの行為ではなく、その後も相手が自分のアイデンティティを持って生きていくことが大切です。定期的に相手の様子を気にかけ、「最近どう?話したいことがあればいつでも言ってね」と声をかけることで、持続的なサポートを提供できます。
対応に困った場合
それでもカミングアウトをされて、対応に困ることもあるかもしれません。
そんな時は、相手に素直に聞いてみることが重要です。
たとえば、「カミングアウトをしてくれてありがとう。何か必要なサポートがあれば教えてね。」といった返答をすることで、相手の希望に沿う形で適切に対応できます。
このアプローチは、相手が自分の状況についてどう感じているのかを確認する良い機会でもあります。相手に寄り添う姿勢を示すことで、信頼関係を深めることができます。
まとめ
多様性を尊重する社会全体の動きからすると、カミングアウトは決して他人事ではなく、さらに身近なものになっていくことでしょう。
たとえLGBTQ+当事者であってもなくても、個々の社員が安心して自己を表現し、パフォーマンスを発揮できる環境を提供することは会社にとっても重要です。
株式会社はアカルクは、ダイバーシティ推進のための取り組みをはじめ、LGBTQ+の方がどのような事に配慮が必要なのか、多様性を意識した採用コーチングから、入社後のガイドラインの策定、制度構築、運用を一気通貫で行う人事コンサルティング、キャリア支援といったプロデュース事業を展開しています。
LGBTQ+に対応する制度の策定をしていきたいといった、課題がある人事担当者や採用担当者の皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。