近年、世界各地でLGBTQ+の権利向上に関する取り組みが注目されている中、日本における同性婚の法制化や多様性への理解も徐々に進んでいます。
しかし、国や地域によってそのアプローチや社会的な反応は異なり、特にイベントを通した認識の広がりには大きな差が見られます。

私は日本で育ち、現在はハワイの大学に通いながら、ゲイ当事者としての視点と多文化の中での気づきをもとに、日米の社会や文化の違いについてコラムを執筆しています。
そうした環境の中で、プライドパレードというイベントが場所によってどのように受け止められ、どのような意味を持つのかに強い関心を抱くようになりました。

そこで今回のブログでは、ハワイと日本のLGBTQ+プライドパレードから見える文化と社会の違いと題し、実際にプライドパレードに参加した方々の体験や、参加はしていなくてもその意義を見つめる人々の声をもとに、「ハワイ」と「日本」で開催されているLGBTQ+プライドパレードを具体的なエピソードを交えながら比較します。
また、それぞれの背景や社会的インパクト、そして今後の可能性について考察し、両国におけるプライドパレードの特徴とその社会的な意義を探っていきます。

 

ハワイと日本、それぞれのパレード事情

ハワイ・ホノルルで開催される「ホノルル・プライド」は、毎年10月に行われる州最大級のLGBTQ+イベントです。
アロハスピリット(※)とともに、地域の人々や観光客が多く参加し、パレードだけでなく音楽フェスやアート展示なども展開される、開かれた雰囲気が特徴です。企業の参加はほとんどなく、地域主体のお祭りのような温かさが感じられます。

※アロハスピリット:思いやりや敬意、調和を大切にするハワイ独自の精神。人とのつながりを重んじる文化的価値観です。

一方、日本で最も有名なプライドイベントである「東京レインボープライド」は、以前は毎年4月末から5月初旬にかけて渋谷・原宿周辺で開催されていましたが、2025年から6月上旬に開催されるようになっています。
企業ブースやステージイベントも充実しており、年々参加者が増加し、企業の参加も拡大傾向にあります。

 

個人の体験から見るパレードの意味

ここからは、実際にプライドパレードに参加した人や、パレードを見守る立場の人たちの声を紹介しながら、それぞれがどのようにこのイベントを受け止めているのかを見ていきます。

 

Brandonさんが語る、ホノルル・プライド

ハワイにあるブリガムヤング ハワイ大学 卒業生のBrandonさんは、ホノルル・プライドでパレードへ参加し、「ホノルル・プライドで初めて“アロハ”の本当の意味を感じました。様々な背景の人々がただ純粋に“幸せでいること”“支え合うこと”を祝っていて、とても感動的でした」と語っています。

さらに、「2022年に出会った方と、偶然にもほぼ同じメッセージ「God loves everyone」と書かれたサインを持っていたことがきっかけで写真を撮りました。
そして翌年の2023年、また彼女に出会い、再び一緒に写真を撮ることができました。年齢に関係なく支援することができるのだと実感しました。」といった体験から、世代を超えたつながりの大切さを感じたといいます。

また、彼が通っていた大学の中での『レインボーデー(※)』の取り組みについては、「初年度はまだマスクが必須だったので、虹色のマスクを配ってみたら、キャンパスの約40%の人が着けてくれたんです。
小さな行動が大きな意味を持つことを感じました」と語っており、LGBTQ+を支援する文化がどのように広がるかを体感した貴重な経験となったそうです。

※ここで言われている『レインボーデー』は、LGBTQ+への理解と支援を促進するために大学の一環として行われた啓発イベントであり、特定のサークルや団体ではなく、大学全体で多様性を祝う日として実施されたものです。

Brandonさんの経験は、LGBTQ+パレードが単なるイベントや祝祭ではなく、参加者一人ひとりに深い内省を促し、自分自身と向き合うきっかけを与えてくれる場であることを教えてくれています。
彼にとってパレードは、自分のアイデンティティを肯定し、心の奥にあった迷いや不安と向き合う機会となり、スピリチュアルな気づきや癒しへとつながる重要な体験でした。
このように、LGBTQ+パレードには、人々の内面に変化をもたらし、新たな一歩を踏み出す勇気を与える力があると言えるでしょうか。

▲パレードで再会したBrandonさんと、同じメッセージを持つ年配女性

 

Ieseさんが語る、プライドパレードへの多面的な視点

ハワイ在住のIeseさんは、プライドパレードに参加はしないものの、その価値と課題の両面を理解していると語ります。

「伝統的な宗教や家庭の抑圧の中で育った人にとっては、自分らしく生きることを祝う貴重な場所になる。それがプライドパレードの大きな意味があると思う」と語っています。

また、アメリカの公衆衛生のトップが「孤独のパンデミック(社会全体で孤独を感じる人が増えていること)」と呼ばれる問題に対して、地域のつながりを大切にすることが大切だと発表しました。LGBTQ+のパレードも、まさにそのように「人と人をつなぐ場所」として大きな意味があると言えます。

一方で、宗教的な考え方や保守的な価値観を持つ人たちの中には、パレードでの露出の多い服装や派手なパフォーマンスに対して「受け入れにくい」と感じる人もいます。そうした意見が出ることで、社会の中で意見の対立が深まり、分断が生まれてしまう可能性もあると心配されています。
しかし、異なる立場や感覚を持つ人同士が対話し、互いの背景や価値観を尊重し合うことができれば、その分断はむしろ理解のきっかけにもなります。
パレードという場が、ただの主張ではなく“つながり” を生む機会として機能することが、より共生的な社会への一歩となるでしょう。

 

日本在住、フィリピン出身のAntonさんが語る、日本でのLGBTQ+プライド体験

2018年に関西外国語大学で交換留学をしていたフィリピン出身のAntonさんは、ゴールデンウィークに訪れた東京で初めて日本のLGBTQ+イベントに参加しました。

「正直、とても感動的で忘れられない経験でした。日本はまだ保守的で、同性愛がタブー視されることもある中、あれほど多くの人が集まっていたことに驚きました。マーチの沿道には女性や子ども、家族連れが手を振って応援していて、外国人である私が“祝福されている”と実感できた瞬間でした。」

Antonさんは、日本のプライドイベントの主な意義は「存在の可視化と教育」にあると語ります。

「日本にもLGBTQ+の人たちは実際に存在していて、社会の中で“見てほしい”“声を聞いてほしい”存在であることを伝えることが、このイベントの大事なメッセージだと感じました。イベントのステージでは、LGBTQ+や多様性を受け入れる社会についてのトークも行われていて、「日本の人たちにもっと知ってもらいたい」という思いがしっかり伝わってきました。」

▲東京で開催されたパレードにて、沿道からの応援に笑顔で応えるAntonさん

「日本は“波風を立てない”文化なので、LGBTQ+が社会秩序を乱さない限りは特に反発されることもないと思います。
ただし、メディアや社会が本格的に歓迎するには、“エンタメ性”があるなど何かしらの価値が求められる印象もあります。」

最後に、近年の変化としてNetflixの『ボーイフレンド』やBL作品の増加に触れながら、次のようにまとめています。

「“受け入れられている”というよりは、“少しずつ寛容になってきた”という印象です。まだ完全に理解されたり、当たり前に受け入れられたりする段階ではないかもしれませんが、それでも以前よりは確実に“見える存在”になってきていると思います。」

 

ハワイと日本、それぞれの“プライドパレード”の形

このように、個人の体験を通して見えてくるプライドパレードの姿は、開催地の文化や社会背景によって多様な色合いを持っていることがわかります。

Brandonさんの経験のように、「ホノルル・プライドで初めて“アロハ”の本当の意味を感じた」と語るように、ハワイのパレードは、愛とつながり、そしてスピリチュアルな優しさに満ちた空間という印象があります。

服装や表現の自由度も非常に高く、派手なコスチュームやカラフルなフェイスペイント、レインボーアイテムに身を包む人々が多く見られます。
Brandonさん自身もレインボー柄の衣装に身を包み、「God loves everyone」と書かれたサインを掲げ、見知らぬ年配の女性と笑顔で再会を果たすなど、世代や文化を超えた交流が自然に生まれていました。

もともとハワイでは、レインボーフラッグや派手な衣装を身にまとって歩くことも歓迎され、沿道の人々がそれを笑顔で応援したり、写真を撮ったりする姿が見られます。
また、LGBTQ+当事者だけでなく、家族や友人、地域の子どもたちまでもが一緒になって参加する光景は、「違いを受け入れ、共に喜ぶ」というハワイ特有の温かさを象徴していると言えるでしょう。

このように、個人の表現を自由に認める“祝う文化”が根づいていることが、ハワイのパレードの雰囲気にも表れているといえるでしょう。

一方、Ieseさんが語るように、ハワイでもすべての人が同じようにプライドパレードに積極的に参加するわけではありません。
露出の多い服装や派手な演出が一部の人にとっては受け入れがたく感じられることもあり、そうした価値観の違いが社会の分断につながる懸念もあるのです。
ただ、そういった声があるからこそ、プライドパレードは「自分と違う他者」と出会い、理解し合うための貴重な場でもあるとも言えます。

そして、日本のプライドイベントについては、Antonさんの語る体験が象徴的です。
彼の目を通して見る日本のパレードは、まだ“受容”という段階ではないものの、“存在の可視化”と“寛容”という一歩先を照らすものとなっていました。
服装や演出の面ではハワイほど自由で派手な印象はなく、比較的シンプルで落ち着いた装いが多いのも特徴です。
Tシャツやフラッグといった控えめなアイテムを身に着けながらも、そこには確かな想いが込められています。

真の中でも、AntonさんはAmnesty Internationalのプラカードを掲げながら、笑顔で沿道の人とあいさるやハイタッチを交わしています。
そこには、祝祭というよりも「存在の可視化とメッセージ性」を重視した日本らしいパレードの姿がありました。

 

プライド以外のLGBTQ+イベント ― ハワイ編

ハワイでは「プライド月間」を通じて、映画上映、ワークショップ、ポエトリーイベントなどが多数開催され、より深い学びや対話の場が提供されています。
こうした取り組みは、パレードが苦手な人にとっても参加しやすい“身近な支援のかたち”として受け入れられています。

以下は、ハワイで今後開催予定のLGBTQ+関連イベントの一覧です。

 

演劇:「The Golden Gays」

  • 日時:2025年5月29日(木)〜6月29日(日)毎公演19:00〜21:30
  • 会場:Kumu Kahua Theatre(ホノルル)
  •  内容:ドラァグクイーンたちの黄金期を描いた演劇。70代のクイーン、セクシャルプレイヤー、離婚した男性たちの「第二の人生」にフォーカスした、ユーモアと感動にあふれる物語。
  • 見どころ:世代を超えたLGBTQ+の生き方に共感できる内容。

 

映画祭:「Honolulu Rainbow Film Festival」

  • 日程:2025年6月27日(金)〜6月29日(日)
  • 場所:ホノルル(詳細会場は後日発表)
  • 概要:国際的なクィア映画を紹介する映画祭で、アメリカでも有数の歴史と信頼を持つイベント。2025年で第36回を迎える。
  • 対象:映画ファン、LGBTQ+関係者、学生など

 

カンファレンス:「Gender Journeys Day」

  • 日時:2025年6月28日(土)8:00〜17:00
  • 場所:Pūpūkahi I Holomua(ホノルル)
  • 対象:医療従事者、教育者、保護者、LGBTQ+の子どもを育てる家族
  • 目的:子ども(keiki)のためのジェンダー・アファーミング・ケア(性自認を尊重した医療と支援)についての知識を深める1日限定のカンファレンス。
  • 特徴:実践的なセッションと地域支援ネットワークの構築

 

「2025 Honolulu Pride Parade & Festival」

  • 日程:2025年10月18日(土)
  • 内容:
    ・夕方4時からカラカウア通りでサンセットパレード
    ・夜5時からワイキキ・シェルで音楽フェスティバル開催
  • 特徴:音楽、ダンス、フードトラック、コミュニティブースなど、多世代で楽しめる。
  • オンライン視聴:過去のイベントでは、パレードの様子がYouTubeでライブ配信されました。2025年の詳細は未定ですが、最新情報は公式サイトで確認できます。
  • 公式サイト:https://www.honolulupride.com
  • 過去の配信例:2024年ホノルル・プライドの様子(YouTube)

ハワイでは、プライドパレードをはじめとするLGBTQ+関連の活動が、地域の文化や価値観と自然に融合しています。
アロハスピリットと呼ばれる「思いやり」「絆」「調和」を重んじる文化が根づいており、多様性を受け入れる基盤が整っているともいえます。
そのため、プライドパレードが単なる権利主張ではなく、地域社会の一員として祝福されるイベントとして定着しています。

 

今後に向けて

LGBTQ+プライドパレードは、単なる「祝祭」ではなく、社会のあり方を映す鏡です。
ときに批判や摩擦を伴いながらも、人々の意識や法制度に変化を促す役割を果たしています。
ハワイと日本、それぞれの文化や歴史に根ざした形での展開がある中、共通して言えるのは、「自分らしく生きることを支える社会」への願いです。

BrandonさんやAntonさんの経験のように、プライドパレードは人々に“気づき” や“つながり”を与える場でもあります。
派手な演出の奥にあるのは、「ありのままを受け入れてほしい」という深い願いと、それを支え合う人たちの優しさや勇気です。

もし、まだプライドパレードに行ったことがないなら、一度その空気を感じてみてはいかがでしょうか?
見るだけでも、何も語らなくても構いません。ただその場にいるだけで、何かが自分の中に芽生えるかもしれません。
そしてその気づきが、誰かの背中を押す力になったり、未来を少し変えるきっかけになるかもしれないのです。

私たち一人ひとりが、その願いにどう向き合うか。
その選択の積み重ねが、より寛容で、多様性を認め合える社会を形づくっていくのではないでしょうか。
次のプライドパレードでは、あなた自身がその一歩を踏み出す存在になってみるのも、きっと素敵な体験になるはずです。

 

筆者プロフィール

日本での生活を経 て、現在はハワイの大学生。ゲイ当事者としての日々の経験や、多様な文化の中で気づいたことをもとに、コラムを書いています。
小さな気づきや出会いを通して、誰もが自分らしくいられる社会について考えています。