イオン”ダイ満足”推進室からグループ全体へ広がるDE&Iの輪

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取り組みとその背景

堀川:イオングループ様が掲げる「イオン”ダイ満足”」とは何ですか?

江藤:”ダイ満足”は、2013年にダイバーシティ推進室の設置をした際に、「ダイバーシティが生み出す従業員とその家族、お客さま、会社の満足」という意味で名付けました。

堀川:すごくキャッチーで覚えやすい言葉ですね。イオングループ様全体でも、D&Iの取り組みを非常に幅広くされていらっしゃいますが、取り組まれるようになった背景は何ですか?

江藤:2013年の株主総会で、当時の社長であった岡田(現イオングループの会長)が、経営戦略としてダイバーシティの推進をコミットしたのが始まりです。2020年までに女性の管理職比率を50%にするという目標を宣言し、9月にダイバーシティ推進室を設置。そこからダイバーシティに関する取り組みが始まりました。
またその年、社外取締役に初めて女性が就任し、女性活躍推進が加速しますが、これは2015年の女性活躍推進法の制定など、社会全体の動きも後押しになったかと思います。

堀川:グループ全体でのD&Iの取り組みでは、女性活躍以外にどのような取り組みをされていますか?

江藤:最初は女性活躍推進、ジェンダーギャップの解消というところから、より多様な、障がい者の活躍推進やLGBTQ+、外国籍、そして同時に、働き方改革などにも段階的に広がりました。また、それらを進めていく中で環境整備にも力を入れています。

堀川:イオングループ内でそれぞれ会社のカラーが異なると思うのですが、その難しさはありますか?

江藤:例えば、設備管理等の事業会社では圧倒的に男性が多く、ほとんど女性がいない一方で、アパレルショップなどの専門店業態のショップ店長は女性が圧倒的に多いです。そのような規模と業態・業種の違いで課題が異なる会社同士が同じ目標に向かっていくということがやはり難しいです。また、どうしても積極的な会社とそうでない会社があるので、足並みを揃えるのは結構大変ですね。

橋本:子会社・孫会社全部で300社ほどからなるグループの中で、約70社の主要会社にはDE&I推進の担当者が設置されており、推進室が彼らにアプローチして各社で展開する体制です。ですが、担当者の関わり方も会社によって本当に異なります。人事系で兼務する場合もあれば、複数の部署からチームを編成する場合もあります。後者の場合、どうしても担当者の交代によって新しく一から取り組みがやり直されることがあります。どちらのやり方がいいのかを各社色々試行錯誤しています。やはりグループが大きいだけに、このような課題はあります。

堀川:積極的ではない会社へのアプローチとして工夫されていることはありますか?

江藤:”ダイ満足”の取り組みの一つに、”ダイ満足”アワードというイオングループ内のDE&I推進企業を表彰する社内アワードがあります。昨年は、あまり取り組めていないという会社にも一歩踏み出してもらうために、とりあえず成果の有無はおいておいて、全社参加を目標にしました。

橋本:DE&I推進を担当している人たち同士が繋がったり話し合えたりする機会をできるだけつくっています。前回堀川さんにもご協力いただいたように、毎回DE&Iに関するテーマを決めて、主にオンラインでの実施ですが、グループディスカッションを四半期に一回行っています。

江藤:社長インタビューも行っています。”ダイ満足”アワードで、ベストプラクティスが出た会社が、実際にその組織全体で取り組めているのかを聞きに行っています。その名目で、その場で社長にコミットしてもらうこともあります。(笑)

橋本:消極的な会社にも社長からアプローチしています。やはり担当者が積極的でもトップが動かないと正直難しい部分もあると思います。消極的な会社でも、お話ししていると前向きな言葉を引き出せたりもしますので、そのような地道なアプローチは大切だと思います。

江藤:交流を持つ機会や、ネットワークの構築が重要だと思います。結局各社がやっていかなければイオングループとしての取り組みにならないので、みんながどうやったら参加できるかというのを考えています。

 

 

LGBTQ+の取り組み

堀川:今D&Iを幅広く取り組まれている中で、LGBTQ+にはどのような流れで繋がったのでしょうか?

橋本:当初は女性の活躍推進が中心だったのですが、2017年からは、多様な人材の受け入れということでダイバーシティ推進をより広げようと、障害者活躍とLGBTQ+、外国籍に関して一気に取り組みが進みました。障害者・LGBTQ+に関しては、偏見や差別をなくすなど、共に働くための理解を深めるために、ユニバーサルマナー検定とLGBT対応マナー研修を導入させていただいたというのが始まりだったと思います。

江藤:2015年の同性パートナーシップ制度の開始もきっかけとしては大きかったと思います。そこから、弊社グループの中でも福利厚生などの制度を整えていきました。

堀川:映画館を使った取り組みも、御社ならではだと思うのですが、その概要を教えていただけますか?

橋本:2017年〜2019年には、ユニバーサルマナー検定とLGBTQ+研修は、全国各地のイオンシネマを使って、管理職向けにシアター形式で行っていましたが、コロナ禍で集合実施が困難になり、中止せざるを得なくなりました。また、DE&Iに関する情報の変化が速いため、上映期間の間に情報が古くなることもありました。そのため、情報の刷新が必要だと感じていました。そこから、アカルクさんに誰でもいつでも受けられる研修動画を3本作っていただいたという形になります。

江藤:イオングループは一度決めたら一気に動くことが得意だと思います。また、グループ会社同士で競い合う文化も根付いています。競争意識を高めるために、数字やベストプラクティス、グループ会社の情報などをできるだけ共有しています。全国各地には実は会社の異なるイオンの店舗がありますが、お客様から見ればどれもイオンのお店ですので、会社ごとにばらつきがあってはいけないと思います。各々の会社が目的理解をしてきちんと取り組むことを根付かせていくことが重要だと考えています。

堀川:すごくい熱いお気持ちが伝わってきました。組織全体を見据えて各種施策を考えていらっしゃる方がいるからこそ、響いているんだろうなと思いました。
LGBTQ+に関しては特にこの数年で状況が大きく変わってきた部分もある一方、個人の価値観にも紐づく部分もあり正解が1つでないからこそ難しい面もあるかと思いますが、御社はすごく丁寧でありながらも積極的に取り組まれているように思います。

橋本:私たちの場合は、お客様対応という点で、より慎重になるためにもむしろ手をつけないわけにはいかなくなっています。トイレに関することなど、お問い合わせも本当に増えました。一つの答えに決めつけないようにしていますが、一方で、店頭で一人ひとりに寄り添いながら希望に合わせるというのは時間や人員の制約から難しい部分もあります。ですので、知識を持ち、適切に対応するための情報を発信しておかなければいけないと思います。現在の状況やニーズ、対応の仕方などについて以前にも増してすごく勉強するようになりました。

 

アカルクを選んだ理由

堀川:LGBTQ+に関する取り組みを行っている団体や企業もたくさんある中で、なぜ弊社を選んで頂けたのでしょうか?

橋本:LGBTQ+対応マナー研修からの繋がり、そしてそこから堀川さんがアカルクを立ち上げたという流れはすごく大きかったと思います。また、慎重な対応が必要なことにアドバイスをいただけるので、何かあったら堀川さんに相談しようというような信頼関係を築けているんだと思います。

江藤:私も2018年に映画館で研修を見ていた者の一人ですが、あの当時はトランスジェンダーの人の話を聞くという機会を持った人はおそらく少なかったと思います。その中で、堀川さん自身が持つ雰囲気や誠実さもあって、共感的な理解を多くの人が持ったのではないかと思います。そのときからの信頼感が続いているのではないでしょうか。

堀川:ありがとうございます。そんな風に仰っていただくと少し照れくさいですが嬉しいです。私も普段様々な企業さんとご一緒させていただきますが、正直、担当者の方とどれだけ信頼関係を作れるかということはすごく大事だと思っています。
組織内における良い面もそうではないことも全部事前に教えてくださることで、社内風土や社内の実態に合わせたものを、すり合わせながら作ることができるので有難い限りです。
単に外部のコンサルというより、何より一緒に変えていくんだ!作っていくんだ!という想いがより一層込み上げてきます。

 

目指す未来

堀川:この先目指していかれるところを、DE&I全体の部分とLGBTQ+の取り組みの部分との二つの軸で教えていただけますか?

江藤:ダイバーシティ全体では、もともと経営戦略としてすべての人が活き活きと働ける組織の実現を目指していました。その理念の実現に辿り着けるようこれからも努力していきたいです。DE&Iについて理解し、環境が整備されることが従業員の”ダイ満足”に繋がりますし、お客さまもそのサービスに満足され、結果的にそれが企業の価値に繋がっていくのではないでしょうか。

橋本:LGBTQ+に関しては、基礎の理解や制度が整いつつある中で、社内外に向けたアライとしての活動により力を入れたいと思っています。アライコミュニティがあることで、より良い風土を醸成できると考えています。また今年はTRP2024にも出たいと思っています。そのように何か動くことで、見えてくる世界が変わると私たちは信じています。女性の管理職比率もまだ50%にならなくても、30%以上になったら急に景色が変わると思います。LGBTQ+に関しても同じように景色が変わると信じています。

 

対談者紹介

江藤悦子

イオン株式会社 DE&I推進室 室長

小売業に入社し、店舗勤務、労働組合専従、店長を経験。2011年3月、企業統合によりグループ入り。グループの人材育成に携わり、2012年から6年間、マレーシアの子会社にて、多様な人材が互いに文化や宗教、個を尊重し、目標を達成させるという多様性のマネジメントと体感。2022年より現職、経営戦力としてのDE&Iの実現を目指す。

 

橋本実佳

イオン株式会社 DE&I推進室

2004年イオングループの事業会社に入社。主に化粧品のPR・広報、CR業務に携わり、化粧品の動物実験反対や環境保護、HIV/エイズへの偏見・差別をなくす啓発など、社会活動を経験。コミュニケーション部リーダーを経て、2019年より現職。グループのDE&I推進に向けて、組織風土、意識改革等の実現を目指し日々精進している。

 

堀川歩

株式会社アカルク 代表取締役

LGBTQをはじめとする多様な人が働きやすい職場環境作りを行い、全国各地で年間100本以上研修や講演を行っている。

 

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