近年、多くの企業でLGBTQ+に関する取り組みが進んできています。中でも、最初の取り組みに研修を選択する企業は多いようです。

一方で、

・何から着手すれば一番効果的かまだ分からない

・コスパを優先しeラーニング型研修を導入したが、社員の理解が深まっている実感がない

・制度を整え、その使い方に関する研修を実施したが、現場で活用されていない

といった声も少なくありません。

本記事を読んでくださっている方の多くは、すでに一歩踏み出したものの、その先で「このままでいいのだろうか」と立ち止まっているフェーズかもしれません。そして、そのヒントを求めてこの記事にたどり着いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

企業におけるLGBTQ+施策は、当事者が継続的にその職場で働きやすい環境を作っていくために行うものです。つまり、「やったかどうか」ではなく、「どう根づいていくか」が問われる領域です。

本記事では、形だけで終わらせず、組織に真の変化を生み出すためのLGBTQ+研修の選び方と設計のポイントを解説します。

 

よくある失敗:なぜLGBTQ+研修は形骸化してしまうのか

LGBTQ+研修において、最も多い失敗のひとつが「形骸化」です。

例えば、LGBTQ+の働きやすさを評価した指標である(※)の取得を目的に、とりあえず研修を実施する。しかしその結果、

・単発で終わる

・その場では「当事者の困りごとに寄り添いたい」という気持ちを引き出すが、具体的な行動に落とし込めない

・現場の行動が何も変わらない

という状態に陥ってしまうケースは少なくありません。

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これは、扱っているテーマの性質は異なりますが、「学びが実生活や現場と結びつかないと定着しにくい」という構造に着目し、少し違う分野の例で考えると分かりやすいかもしれません。

。日常生活の多くが日本語で完結し、「英語を使わなければならない場面」に日常的に直面しない環境では、どれだけ授業を受けても、実際には使いこなせず、時間が経てば忘れてしまうという経験をした方も多いのではないでしょうか。

つまり、「必要性」が腹落ちしていない学びは、定着しにくいのです。

LGBTQ+研修も同様です。
職場など自分の生活圏と結びつける気づきがなければ、「大切そうなこと」としては理解されても、「自分が関わるべきこと」としては捉えられにくい。

結果として、学びは日常に接続されず、研修は一過性のものになってしまいます。

また、大手の企業が効率的に全社員に啓発を実施するために使いがちなeラーニングですが、これにも下記のような課題があります。

・早送りで「ながら見」される

・設問の答えだけを検索して埋める

・視聴後のアンケートだけ答える

といった「こなすだけの学習」になってしまうことがよくあるようです。

ここに共通しているのは、「なぜこの学習をするのか」が自分ごとになっていないという点です。

研修は「実施すること」が目的ではありません。

その先にある、「当事者も安心して働ける環境をつくること」が本来の目的のはずです。

この視点を見失った瞬間、どれだけ質の高い研修でも、組織を変える力を持てなくなってしまいます。

 

LGBTQ+研修の主な種類と特徴

LGBTQ+研修と一口に言っても、そのアプローチはさまざまです。まずは代表的な研修スタイルを整理してみましょう。

  • 基礎理解研修(用語・概念)

LGBTQ+の基本的な用語や概念、社会的背景を学ぶ研修です。初期フェーズでは不可欠ですが、これだけでは受講者のエモーショナルな部分を揺さぶるまでには至らず、行動変容にはつながりにくいのが特徴です。

  • 当事者理解・体験型研修

当事者の体験談や対話を通じて理解を深める研修です。共感を生みやすく、意識変容には効果的ですが、それだけで職場環境が変わるわけではありません。その業種・職種に合わせた落とし込みまでをセットにする必要があります。

  • ハラスメント・コンプライアンス研修

SOGIハラ防止など、リスクマネジメントの観点からの研修です。組織としての最低限のラインを整える役割を持ちます。法務部門との共催などで負荷を抑えて実施することができる場合もありますが、インクルージョンのメッセージを薄めないよう調整する必要があります。

  • 管理職向け研修

部下対応やマネジメントの観点からの研修です。現場に影響力のある層へのアプローチとして非常に重要ですが、それだけにうまく巻き込めないと職場の風土醸成が難しくなってしまうため、特に繊細な設計が必要です。また、あまり多くの時間が取れない場合も多いため、内容の取捨選択が迫られる場面もあるでしょう。

  • 制度設計・実務研修

人事・総務向けに、制度設計や運用のポイントや実務面も考慮した研修です。実際の仕組みづくりに直結します。また、制度制定後の利用方法について、ピンポイントで研修を実施する場合もありますが、ハウツーにとどまらず、その制度の意義も啓発したいものです。

  • eラーニング

時間や場所にとらわれず受講できる手法です。大規模組織では特に有効ですが、使い方を誤ると形骸化しやすい側面もあります。

どれも重要で使い方によっては多大な効果を発揮しますが、どれか一つで十分ということはありません。

むしろ重要なのは、「どのタイミングで、誰に、どの研修を、どの順番で届けるか」という設計なのです。

風土と制度は両輪である

LGBTQ+施策において、本質的に重要なのは「風土」と「制度」の両方にアプローチすることです。そしてそれに最も効果があるのが研修です。

【風土だけでは変わらない】

例えば、LGBTQ+をテーマにした映画を鑑賞し、社員が理解を深めたとします。

映画には、座学では産めない共感や感動があり、その瞬間、確かに心は動きます。

「もっと理解したい」「寄り添いたい」という気持ちも生まれるでしょう。

しかし、その感情だけで職場の仕組みが変わることはほとんどありません。

時間が経てば、一瞬の情動は日常に埋もれてしまいやすいからです。

【制度だけでも機能しない】

一方で、制度だけを整えてもうまくいかないケースもあります。

例えば、パートナーシップ制度を導入したものの、「制度の説明だけで終わる」「なぜ導入したのかが共有されていない」という状態では、制度は「存在するだけ」のものになってしまいます。

結果として、一度も使われることなく形骸化してしまうことも珍しくありません。

だからこそ必要なのは「スパイラル型の設計」

LGBTQ+研修は、一度で終わるべきものではありません。

【心が動く⇒仕組みを知る⇒自分の行動を見直す⇒また新たな気づきを得る】

この循環を、何度も繰り返していく必要があります。

例えば、

・当事者の話を聞いて理解を深める

・制度や行動指針を学ぶ

eラーニングで振り返る

・ディスカッションやワークで自分の職場に引き寄せ、自分ごと化する

こうした積み重ねが、少しずつ組織の空気を変えていきます。

一度の大きなイベンとで予算を使い切ってしまうよりも、地道でも継続的な取り組みを何度か実施するほうが、結果として深く根づきにつながるでしょう。

LGBTQ+研修の選び方:失敗しないための5つの視点

では、どのように研修を選べばよいのでしょうか。

重要なのは「その研修が、自社の変化につながる設計になっているか」という視点です。

① 目的とフェーズから逆算されているか

まず最も重要なのは、「なぜこの研修をやるのか」、そして「今の自社にとってどの段階の取り組みなのか」が明確になっているかです。

・基本的な理解促進を図りたいのか

・行動変容を促したいのか

・制度の活用を進めたいのか

そして同時に、自社がどのフェーズにいるのかも見極める必要があります。

・初期:基礎理解の浸透

・浸透期:対話や体験を通じた理解の深化

・定着期:行動変容や制度活用

目的とフェーズは切り離せるものではなく、本来はセットで考えるべきものです。

例えば、制度を導入したばかりの企業であれば、「なぜこの制度が必要なのか」を腹落ちさせることが優先されます。一方で、すでに一定の理解が進んでいる企業であれば、「では具体的にどう行動すればよいのか」といった実践的なヒントが求められるでしょう。

ありがちなのは、初期段階にもかかわらず、いきなり高度なディスカッションや実践論に踏み込んでしまい、現場がついてこず、このトピックに苦手意識を持ってしまうケースです。逆に、すでに理解が進んでいるのに、基礎的な内容を繰り返してしまうと、学びは停滞してしまいます。

また、「せっかくだから全部盛り込もう」と欲張りすぎることで、結果的に何も印象に残らない研修になってしまうこともあります。

大切なのは、自社の現在地に正直になること。そして、その一歩先に進むために必要な内容に、焦点を絞ることです。

 

② 受動型で終わっていないか

ここは、実際に変化が起きた企業に共通する重要なポイントです。

単に話を聞くだけの研修ではなく、ワークを含むことで、研修は一気に自分ごと化します。

実際にワークを行った企業では、その後の施策(映画上映、トークイベント、パレード参加など)に対する社員の参加姿勢が明らかに変わるケースが見られます。

「あのとき考えたことの延長線上にある」と認識されることで、主体的な関与が生まれるのです。

 

③単発で終わらない設計になっているか

LGBTQ+研修は、単発では意味がありません。重要なのは「継続」と「接続」です。

例えば、

・研修後にフォローアップの機会を設ける

eラーニングで定期的に振り返る

・次の施策とつなげる

といった設計がされているかがポイントになります。

特にフォローアップにおいては、単なる知識確認ではなく、研修内容に紐づいた問いや浅い検索では答えられない問いを設計することで、理解の定着度が大きく変わります。

むしろ、フォローアップの設問から逆算して研修を設計する、という考え方も有効です。

 

④ 効果測定まで設計されているか

意外と見落とされがちですが、研修は「やりっぱなし」にしないことが重要です。

アンケートの項目まで事前に設計しておくことで、その後の施策につながります。

例えば、

・研修後の意識変化

・行動意欲の変化

・職場に対する認識の変化

などを測定し、さらにエンゲージメント調査と掛け合わせてクロス分析することで、組織全体の変化を可視化することも可能です。

こうしたデータがあることで、次の施策の検討の材料となったり、プレゼンの説得力も大きく変わります。

 

eラーニングの正しい活用方法

eラーニングは「形骸化しやすい」という側面がある一方で、使い方次第で非常に強力なツールになります。ポイントは、「単体で完結させないこと」です。

例えば、

・研修前の導入として活用する

・研修後の振り返りとして使う

・定期的なリマインドとして組み込む

といった形で、全体設計の中に位置づけることが重要です。

eラーニングをやったから終わり」ではなく、「理解を定着させるための補助線」として活用するとよいでしょう。

研修会社の選び方:見るべきは「バランス感覚」

最後に、研修会社を選ぶ際のポイントです。

LGBTQ+領域の研修では、当事者性に寄りすぎた内容、または逆にビジネス寄りに偏りすぎた内容のどちらかに偏っているケースも少なくありません。

しかし実際の企業現場では、当事者のリアルな声と組織としての実務の両方を踏まえたバランスが不可欠です。

また、単発の研修提供だけでなく、課題の言語化や施策の設計、継続的な伴走まで対応できるかどうかも重要な観点です。

まとめ:研修は「設計」で成果が決まる

LGBTQ+研修は、「何をやるか」以上に「どう設計するか」で成果が大きく変わります。

・風土と制度を両輪で捉えること

・単発ではなくスパイラルで設計すること

eラーニングを補助的に活用すること

・効果測定まで含めて考えること

これらを意識することで、研修は単なる点ではなく、組織変革のための線上の要所となるでしょう。ただし、すべてを一度に完璧に整える必要はありません。

大切なのは、「今の自社のフェーズはどこなのか」を把握し、その段階に合った取り組みから始めていくことです。

その初期検討や、次の一手を考えるための材料として、eラーニングは有効な選択肢の一つです。

基礎理解、当事者理解、ハラスメント防止など、テーマ別にコンテンツが分かれていることで、自社の状況や目的に応じて必要な学びを選ぶことができます。

株式会社アカルクでは、LGBTQ+研修の設計・伴走支援に加え、eラーニングコンテンツの提供も行っています。

現在、eラーニングは無料で視聴していただくことも可能ですので、「まずはどんな内容なのか知りたい」「自社のフェーズに合うか見極めたい」という段階でも、安心してご活用いただけます。

自社にとって必要な取り組みを見定める起点として、ぜひ一度ご覧ください。 

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執筆者:ししまる

IT中堅企業の人事としてDEI施策全般を主導する傍ら、社内外でLGBTQ +の支援活動にも従事。
企業内担当者として、
さらにイチ当事者としての目線からも、自分らしく働ける組織づくりについて発信します。