日本でも、LGBTQ+への認知は少しずつ広がっています。しかし、実際に“どのような取り組みが行われているのか”についてまでは、まだあまり周知されていません。

そのため、経営者や採用担当者、ダイバーシティ推進担当者の方のなかには

「多様な人材が安心して働ける職場をつくりたい」
「LGBTQ+に配慮した採用・制度設計を進めたい」

と思っていても、「具体的に何をすればよいのかわからない 」という方がとても多いです。

そこで本記事では、以下の4項目における、LGBTQ+に関する取り組み事例をまとめました。

  • 政府
  • 学校・教育現場
  • 自治体
  • 企業

職場環境づくりの土台にもなる具体例をまとめているので、ぜひ活用してみてください。

LGBTQ+に関する日本の取り組みは進んでいるのか?

事前知識としてまず、日本におけるLGBTQ+への理解や制度整備がどの程度進んでいるのかを見ていく必要があります。

G7で同性婚を認めていないのは日本のみ

結論からいえば、「日本は先進国の中でもLGBTQ+への取り組みが進んでいるとは言い難い」のが現状です。

その状況を考えるうえで、ひとつの参考になるのが、同性婚が認められているかどうかという視点です。

たとえば上の図は、各国において同性カップルがどの程度法的に承認されているかを示したものです。

日本では、同性婚や全国一律のシビルユニオン制度(結婚ではないものの、カップルとして法的に認める制度)は導入されていません。

一方で、自治体単位ではパートナーシップ制度の導入が広がっており、認証の有無や内容が地域によって異なるため、国際的な分類では「Varies(地域によって異なる)」とされています。

なお、G7の中で同性婚が法制化されていないのは、日本のみです。

外務省もLGBTQ+への取り組みが限定的であることに言及

また、日本の外務省が国連向けに公表したSDGsに関する政府報告書「Voluntary National Review 2025 Report on the implementation of 2030 Agenda JAPAN」でも、以下のように記載されています。

Additionally, the “Act on Promotion of Understanding of the Diversity in Sexual Orientation and Gender Identity”(commonly known as the “Understanding Promotion Act”) was enacted in 2023, but the formulation of a basic plan is not yet underway. National-level initiatives are still limited to certain areas, such as labor administration by the Ministry of Health, Labor and Welfare.出典・引用:Ministry of Foreign Affairs of Japan「Voluntary National Review 2025 Report on the implementation of 2030 Agenda JAPAN」

日本語訳は次の通り。

2023年には『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律』(通称『理解増進法』)が成立したが、基本計画の策定はまだ始まっていない。国レベルの取り組みも、厚生労働省による労働行政など、一部の分野に限られている。

日本ではLGBTQ+への理解は広がりつつあるものの、法制度や政府主導の取り組みはまだ限定的。国際的に見ても、十分に進んでいるとはいえない状況にあります。

LGBTQ+の日本の現状について詳しく知りたい方はこちら

政府のLGBTQ+に関する取り組み

LGBT 政府 取り組み

日本のLGBTQ+の取り組みは「進んでいる」とは言い難いですが、それでも少しずつ社会を変える動きは見られています。

まず政府のLGBTQ+に関する特徴的な取り組みとして、以下の2つが挙げられます。

  • LGBT理解増進法の施行
  • LGBTQ+に関するハラスメント対応を明確化

LGBT理解増進法の施行

2023年、LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が成立しました。

同法律では、国・地方公共団体・事業者・学校などが、それぞれの立場で理解増進に努める方向性が示されています。

具体的には、以下の通りです。

  • 国や自治体が理解増進に関する施策を進めること
  • 事業者が職場での理解促進や就業環境の整備に努めること
  • 学校が教育や啓発を通じて理解を深めること
  • 社会全体で多様性への理解を広げること

これは同性婚や差別禁止を直接定めた法律ではありませんが、政府がLGBTQ+を公的な政策課題として位置づけた点では大きな動きです。

「権利保障そのものというより、理解促進を制度化した日本型アプローチ」だといえるでしょう。

LGBTQ+に関するハラスメント対応を明確化

また、厚生労働省の指針では、以下がパワーハラスメントに該当する場合があると示されています。

  • 性的指向・性自認に関する侮辱的な言動
  • 本人の了解なくそれを第三者に暴露するアウティング

日本において、事業主にはハラスメント防止措置を講じる義務があります。

具体的な取り組みにまでは及んでいませんが、政府がLGBTQ+に関する問題を職場の人権や就業環境に関わる課題として位置づけた事例だといえます。

学校・教育現場のLGBTQ+に関する取り組み


LGBT 学校 教育現場 取り組み

学校・教育現場のLGBTQ+に関する取り組みとして、以下が挙げられます。

  • 文部科学省が学校現場での対応方針を通知

文部科学省が学校現場での対応方針を通知

文部科学省は2015年、「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を出しました(※)。

これは学校現場に対して、性同一性障害に該当する児童生徒への対応を求めた公的文書です。

その中には、以下の通り記載されています。

性同一性障害に係る児童生徒については、学校生活を送る上で特有の支援が必要な場合があることから、個別の事案に応じ、児童生徒の心情等に配慮した対応を行うこと。

出典・引用:文部科学省「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」

この通知では、性的マイノリティの児童生徒への配慮を学校現場の正式な課題として示しました。

またその後、文科省は2016年に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を作成。

通知だけで終わらせず、学校が運用しやすい形にした取り組み事例です。

※かつては「性同一性障害(GID)」と呼ばれていたが、現在はICD-11(国際疾病分類)で「性別不合」へと名称が変更

出典:文部科学省「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」

自治体のLGBTQ+に関する取り組み



自治体のLGBTQ+に関する特徴的な取り組みとして、以下を紹介します。

  • 大阪府・大阪市
  • 東京都・世田谷区
  • 宮崎県・宮崎市

大阪府・大阪市

大阪府は2019年、「大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例」を施行しました。

この条例では、府民の理解増進に向けた教育・啓発に加えて、府の事務事業において性の多様性に配慮することなどが明示されています。

また、大阪府はパートナーシップ宣誓証明制度も運用しており、条例の制定にとどまらず、具体的な行政制度としても取り組みを進めています。

さらに大阪市では、「大阪市LGBTリーディングカンパニー認証制度」を設けました。

これは、性的マイノリティに関する課題の解消に向けた取り組みを進める事業者を、市が認証する制度です。認証を受けた事業者には、市のホームページや広報媒体での紹介、就職支援事業での情報提供などの支援が行われます。

このように大阪では、条例やパートナーシップ制度の整備に加えて、自治体が企業の取り組みを評価し、後押しする仕組みも作られています。

出典:大阪府「大阪府性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例」
出典:大阪市「「大阪市LGBTリーディングカンパニー」認証の申請を受け付けています」

東京都・世田谷区

世田谷区は、パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度を作って終わりではなく、その証明書などを使って利用できる行政サービスを一覧化しています。

たとえば、災害弔慰金・災害見舞金・死亡補償一時金の支給、区営・区立住宅への入居など、実際の行政サービスにつながっています。

「宣誓制度があります」と伝えるだけでなく、暮らしの場面で使える制度に落とし込んでいるのが大きな特徴です。

出典:世田谷区「パートナーの方々等が利用できる行政サービス等のご案内」

宮崎県・宮崎市

宮崎市は「性的少数者に配慮した様々な行政場面での対応事例集」を作成し、窓口などで職員がどう対応するかを整理しています。

同事例集の作成においては、職員アンケートも実施し、実際の行政場面の事例を収集。非常に実務寄りで、単なる啓発資料より一歩進んでいます。

また、宮崎市公式サイトのFAQでは、男女共同参画センターでの性的少数者相談、職員向け研修、公的文書の性別記入欄の削除を行っていると案内。制度・相談・書類運用の見直しまで進めています。

出典:宮崎市「性的少数者に配慮した様々な行政場面での対応事例集」
出典:宮崎市「Q.LGBTを含む性的少数者(性的マイノリティ)の支援について教えて欲しい。」

企業のLGBTQ+に関する取り組み


LGBT 企業 取り組み

最後に、企業のLGBTQ+に関する取り組みとして、以下の3社を紹介します。

  • SONY(ソニー)
  • 資生堂
  • AEON(イオン)

SONY(ソニー)

ソニーグループは、性的指向や性自認、性表現を含む多様性を尊重し、ハラスメントや差別のない職場づくりを重視している会社です。

具体的には、LGBTQ+への理解を深めるために以下の取り組みを実施。社員が基礎知識を学べる機会を広げています。

  • eラーニングの受講促進
  • トークイベントの実施
  • 社内勉強会
  • ハンドブック共有

さらに、東京レインボープライド2024に国内ソニーグループ合同で初参加。役員・社員・パートナー・家族を含む約150人が参加しました。

制度面では、結婚祝い金、忌引き、家賃補助など、配偶者向け制度の一部を同性パートナーも使えるようにしています。

また、社内での通称名の使用、多目的トイレの設置、男女兼用ユニフォームの導入、採用時の性別欄の任意記入など、働きやすい環境づくりも促進しています。

出典:SONY「LGBTQ+社員が働きやすい環境整備」

資生堂

資生堂は、化粧品メーカーならではのアプローチで、LGBTQ+支援の取り組みを行っている会社です。

同社は2025年6月、資生堂のヘアメイクアーティストが監修・作成したメイクガイド「Expressing Your True Colors」 を公開しました。

LGBTQ+支援団体協力のもと、LGBTQ+当事者の悩みやニーズを調査。見た目の悩みや自己表現に寄り添う情報提供まで行っています。

また上記ガイドの公開に合わせ、資生堂ジャパンの専門スタッフが講師のメイクワークショップも開催しました。参加者が実際に試しながら、自分らしい表現を学べる機会を作っています。

出典:SHISEIDO「Empowering People Through the Power of Beauty」

AEON(イオン)

AEONは、人権基本方針の中で性的指向・性自認などを理由とした差別を行わないことを明記し、LGBTQ+を含むDEI施策を進めています。

単なる方針表明にとどまらず、従業員向け研修やアライ育成、社外イベントへの参加などを通じて、理解促進と職場づくりを進めているのが特徴です。

具体的には、LGBTQ+に関する研修をオンデマンドで提供。基礎知識に加えて、接客時に配慮すべきことも学べるようにしています。

また、アライ(LGBTQ+当事者を理解し、支援する人)育成にも取り組んできました。周囲の理解者を増やすことで、誰もが働きやすい職場環境を目指しています。

出典:AEON「LGBTQ+の取り組み」

LGBTQ+施策を自社で進めたい方へ

自治体や他社の事例を知ることは、自社の制度設計や職場づくりを考える第一歩となります。自社に不足している視点や、すでに取り組めそうな施策が見えやすくなるためです。

とはいえ、記事を読んだ方の中には

「具体的に最初の一歩をどう踏み出せばよいかわからない」
「より実務に役立つ情報を知りたい」

そのように感じている方もいるかもしれません。

アカルクでは、LGBTQ+施策の基礎から実務に役立つ調査資料まで、無料でダウンロードできる資料を用意しています。

自社で何から始めるべきか整理したい方は、ぜひ参考にしてみてください。

資料を無料でダウンロードする

 

執筆者:佐藤ひより

大手メーカーの海外営業職を経験後、2018年にライターとして独立。フリーランスとして多様な価値観や働き方に触れる中で、「一人ひとりが自分らしく生きられる社会」に関心を持つように。現在は、キャリア・ビジネス・ライフスタイル分野を中心とした記事制作に携わっています。