企業の人事・DEI推進担当者としてあらためて昨年を振り返ると、2025年は「取り組みは確実に広がった一方で、新たな問いも突き付けられた一年だった」と感じます。
本記事(前編)では、企業のDEI推進に実務として関わる立場から、2025年に日本企業が関与した、あるいは強い影響を受けたLGBTQ+関連トピックスのうち、主に企業による具体的な実践やアクションに焦点を当てて整理します。
2024年に続き、昨年も日本では企業によるLGBTQ+関連の取り組みがさまざまな形で展開されました。
一方で、今年は海外を中心にDEI活動への逆風が可視化された年でもあり、日本企業にとっても、自社の取り組みをどのようなスタンスで続けるのかが改めて問われる一年となりました。
こうした環境下において印象的だったのは、単に「流行としてのDEI」を追うのではなく、自社のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)や強み、業界特性を踏まえ、「その企業だからこそできる形」で本質的なLGBTQ+への取り組みを模索・実践する企業が増えていたことです。数値目標を掲げて継続的なアクションを進める企業、地域や若者を巻き込む企業、過去の出来事や社会的責任と向き合いながら言葉を選ぶ企業など、そのアプローチは多様です。
また、企業単体の施策だけでなく、プライドイベントや業界横断の枠組み、司法や社会動向との関係性など、企業活動と社会の動きがより密接に結びついていることも、2025年の特徴として挙げられるでしょう。企業の取り組みは、もはや社内施策にとどまらず、地域や業界、そして社会全体にどのような影響を与えるのかという視点なしには語れなくなっています。
個々の事例を「先進的」「模範的」と評価することが目的ではありません。それぞれの取り組みが、人事・DEI推進担当者にどのように参考になるのかに着目しながら、年が明けた今だからこそ、2025年のできごとを振り返っていきましょう。2026年の施策を考えていただくヒントになれば幸いです。
■ Tokyo Pride— 2025年の展開と今後の「居場所づくり」へ
2025年6月に開催された Tokyo Pride 2025 は、LGBTQ+コミュニティの権利と多様性を祝う象徴的な年次イベントとして、代々木公園および渋谷・原宿エリアを舞台に行われました。今年のテーマは 「Same Life, Same Rights」 で、すべての人が尊厳と平等の権利を享受する社会を目指すというメッセージが掲げられました。プライドマンスを通じて開催されたパレードやさまざまな催しには当事者やアライ、企業・NPOなど多様な参加者が集い、社会発信としての存在感を高めました。
さらに、2026年のTokyo Prideについても動きが見え始めています。今年も昨年に引き続き、世界的なプライドマンスと接続できる6月に開催されることが既に発表されており、企業・団体向けのスポンサー募集も開始されています。また、2026年1月には当事者やアライが集えるコミュニティ「Queer Space Tokyo」が設置されることが告知されており、単発イベントを超えた「場づくり」へのシフトが見られます。
★ポイント
・「祝祭」と「学び」の両立
Tokyo Pride 2025は、パレード・フェスティバルという祝祭空間に加えて、LGBTQ+に関わる多様な課題への理解を深めるプログラムを組み込み、社会発信としての役割を強めた。
・祝祭から日常へ
当事者はプライド月間やイベントの時だけ存在するわけではなく、365日それぞれの日常を生きている。居場所づくりの取り組みは、その現実に応え、
祝祭の場を越えて日常的なつながりや安心を支える基盤をつくろうとする動きといえる。
■Pride Action 30— 巻き込み型アクションへの進化
2024年のまとめでもご紹介した、パナソニックコネクトとプライドハウス東京を中心に展開されている企業連合プロジェクト「ACTION30」は、2025年に2年目を迎え、参加企業は65社に拡大しました。2024年の立ち上げ時は先進的な企業の参画が注目されましたが、2025年はより幅広い企業を巻き込むフェーズへと移行したようです。
2024年も実施した有償参加企業による日経新聞への全面広告掲載だけでなく、2025年は無償での協賛・参画・アセット利用も可能とし、これから取り組みを始めたい企業や、リソースに限りのある企業にも門戸を開きました。
これにより、ACTION30は「先進企業の取り組み発信」にとどまらず、これからLGBTQ+施策に着手する企業を導きエンパワーする枠組みとして機能し始めました。2024年の記事で紹介した“象徴的アクション”から、2025年はより実務的・育成的な取り組みへと進化したと言えるのではないでしょうか。
★ポイント
- 有償・無償の両立により、企業規模や成熟度の異なる参加を可能にした
日経全面広告という有償施策で社会的な存在感を示す一方、無償協賛の枠を設けることで、これからLGBTQ+施策に取り組む企業も巻き込んだ点が特徴的である。
参加条件を緩やかにすることで、完成度の高い施策を持つ企業だけでなく、検討段階・初期段階の企業にも「参加できる入口」を用意した。
■ サノフィ — 医療アクセス改善を狙った政策提言と職場内外のインクルージョン
製薬企業のサノフィ株式会社 は、2025年5月に弊社アカルクを含む複数の製薬会社・支援団体とともに「LGBTQ+の医療における要望書タスクフォース」を構成し、内閣府および厚生労働省へ「LGBT理解増進法に基づく基本計画」に関する要望書を提出しました。
この要望書では、医療機関の現場で安心して受診することが難しいケースがある現実を踏まえ、以下のような項目を含む、医療アクセス改善や理解促進に向けた具体的施策の提案を行っています。
- LGBTQ+当事者が安心して受診できる環境整備のためのガイドライン策定
- 同性パートナーを含めた“家族”としての医療現場での認識・対応
- LGBTQ+の健康格差や医療アクセス改善を目的とした調査・研究の強化
★ポイント
- 制度と現場をつなぐ政策提言
単なる社内施策や啓発にとどまらず、政府の基本計画に具体的提言を届けることで、「医療アクセスの公平性」というLGBTQ+支援の新しい局面を切り開いている。 - 企業同士・支援団体との連携
同業社とのタスクフォース形成やアカルクとの協働など、単独ではなく連帯で実施することで、社会への影響力を高めている。
出典:アカルク ニュースページ
■ファミリーマート × コカ・コーラ ボトラーズジャパン — 学生・教育現場とつなぐ継続的取り組み
ファミリーマートとコカ・コーラ ボトラーズジャパンは、2019年頃からLGBTQ+理解促進の取り組みを協働で進めており、2024年のまとめでもご紹介しました。2025年、その動きはさらに広がりました。両社はプライド月間のステッカー配布や生活者向けキャンペーンなどを継続実施する一方で、今年は教育現場との協働に踏み込みました。
2025年12月、ファミリーマート、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、認定NPO法人ReBitの3団体が協働し、川崎市内の中学生を対象に、多様性をテーマにした授業プログラムを展開。ワークショップ形式で性の多様性についての基礎知識を伝えたほか、企業担当者が日常の生活や行動とLGBTQ+理解を結びつける視点を紹介しました。また、授業の最後には両社のアライ社員がデザインしたステッカーが配布され、次の行動への意識づけが図られたとのことです。
この授業は、両社が長年取り組んできた活動の延長線上にあり、生活者(特に若年層)との接点設計に踏み込んだ事例として読み取れます。企業のLGBTQ+対応が「社内理解」から「社会理解の共創」へと広がりつつあることを象徴していると言えるのではないでしょうか。
★ポイント
- 両社のミッションに根ざした形で、生活者に最も近い場所から発信した取り組み
地域・日常に根差す両社の強みを活かし、教育現場という生活圏でLGBTQ+理解を促進した点は、「この両社だからできた」例といえる。
- 次世代との接点を通じて、理解促進とブランド価値を同時に高める可能性
教育現場での協働は、社会的意義にとどまらず、企業の姿勢を体験として伝え、社内外の共感や将来の採用文脈にもつながり得る。
出典:コカ・コーラ ボトラーズジャパン 公式サイトニュースリリース
■セールスフォース:戦略的LGBTQ+ガイドブックの発行と“使われる知”への展開
2025年6月、セールスフォース・ジャパンは、LGBTQ+施策を体系的に整理した戦略的ガイドブックを発行しました。人事・DEI担当者だけでなく、経営層や事業部門も視野に入れた構成となっており、単なる制度紹介や啓発資料にとどまらず、「なぜ企業戦略としてLGBTQ+施策に取り組むのか」「自社のフェーズに応じて何から始めるのか」といった実務的な問いに答える内容が特徴です。
本ガイドブックは、発行して終わりではなく、実際に活用されることを前提にした展開がなされている点にも注目です。セールスフォースは、ガイドブックを用いた他社との合同ワークショップや、関係者を招いたイベント・セミナー(Salesforce Pride Gala Tokyoなど)を開催し、企業同士が学び合い、実践知を共有する場を設けています。これにより、知識が資料の中に留まらず、各社の具体的なアクションへと接続される設計となっていると私は思いました。
★ポイント
- 「読む資料」から「使うツール」へ
ガイドブック発行後のワークショップやイベント開催までを含めた設計により、LGBTQ+施策を落とし込む実践的な支援につなげている。 - 企業間連携による学習効果の拡張
単独企業の取り組みにとどまらず、他社と共に考える場をつくることで、業界全体の底上げを意識したアプローチとなっている。 - グローバル企業の知見を日本文脈へ翻訳
セールスフォースが蓄積してきたグローバルな知見を、日本企業の実情に即した形で整理・提供している点は、これから施策を検討する企業にとって参考性が高い。
■まとめ
ここまで見てきたように、2025年は、日本企業におけるLGBTQ+施策が「実践として根付き、広がり始めた一年」だったと言えるでしょう。
プライドイベントへの関与、企業連携プロジェクト、政策提言、教育現場との協働、実務に使われるガイドブックの発行など、その形は多様でありながら、いずれも「自社の文脈で何ができるか」を模索する動きが共通していました。
一方で、こうした前向きな実践が積み重なったからこそ、次に見えてきた課題もあります。
法制度や社会インフラとのギャップ、企業の努力だけでは埋めきれない構造的な問題――それらは、2025年の取り組みを語るうえで避けて通れない論点です。
後編では、司法や制度、評価指標、文化的発信など、より社会構造に近い領域で起きた動きを振り返りながら、企業のDEI推進が今どの地点に立っているのかを考えていきます。
執筆者:ししまる
IT中堅企業の人事としてDEI施策全般を主導する傍ら、社内外でLGBTQ +の支援活動にも従事。企業内担当者として、さらにイチ当事者としての目線からも、自分らしく働ける組織づくりについて発信します。