毎年6月は「プライド月間(Pride Month)」と呼ばれ、世界中でLGBTQ+(性的マイノリティ)の人々の人権や尊厳、多様性を祝い、広く社会にその存在を認識させるイベントが開催されます。
最近では日本国内でもこの動きが少しずつ広がり、SNSや広告、イベントなどを通じて「プライド月間」という言葉を見聞きする機会も増えてきました。
その象徴とも言えるのが「プライドパレード」です。レインボーフラッグを掲げて街を歩くこの華やかなパレードは、ただ楽しいだけのお祭りではありません。歴史的な背景や社会的な意義、そして未来への希望を内包した、力強いメッセージの場です。
本記事では、プライドパレードの国内外の歴史の紹介から始まり、企業としてこの場に関わる意義、そしていろいろな関わり方について紹介します。
今年、様々なプライド月間のイベントへの参加を予定している方はもちろん、まだ迷っている方や応援を検討している方の背中を押せる内容になれば幸いです。
※「プライド(Pride)」とは
単語の持つ意味「誇り、矜持」から発展して、LGBTQ+のコミュニティに属する全ての個人が自己の性的指向や性自認に誇りを持っていいのだという概念を表す言葉です。
プライドパレードの原点――「ストーンウォールの反乱」からはじまった運動
プライドパレードの起点とされているのは、1969年6月、アメリカ・ニューヨークの「ストーンウォール・イン」というゲイバーで起きた出来事です。
▲ストーンウォール・イン(ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ)
当時、性的マイノリティに対する差別や偏見が激化しており、警察の理不尽な弾圧が続く中で、この店に対しても強制捜査が行われました。
しかしこの日は、客や地域の人々がこれに抗議し、数日にわたる大規模な暴動が発生。これがLGBTQ+解放運動の転機となり、翌年には「クリストファー・ストリート・パレード」として世界初のプライドパレードが開催されました。
この出来事を記念して、毎年6月にプライド月間が設定されるようになったと言われています。
それから50年以上に渡り、世界中でプライド月間は続き、多様な人々が「自分らしく生きる権利」を祝福し、社会に訴える機会となっています。
特に取り組みの進んだ国では、プライド月間は単なる象徴的な活動にとどまらず、DEI施策の実行タイミングとしても注目されている一面もあります。
株式会社アカルクでは、2024年10月に大阪で行われたプライドイベント「関西レインボーフェスタ」に合わせ、「The Akaruku Inn」というブースを出展しました。これは「LGBTQ+の歴史背景や知識を楽しみながら学ぶ」をコンセプトに、上記の「ストーンウォール・イン」をモチーフにして企画したものです。
▲The Akaruku Inn(関西レインボーフェスタ2024)
レンガ調の壁やネオンサインによるロゴなど、外観のリアルさにこだわっただけでなく、LGBTQ+の運動が始まるきっかけとなったこの建造物の意味や価値に立脚し、D&IやLGBTQ+関連の絵本を展示したり、ダーツやボールプールといったコーナーも用意し、子どもから大人までLGBTQ+の歴史背景や知識を楽しみながら学べる空間としました。
このように、「ストーンウォールの反乱」に端を発するプライドパレードやイベントは、年を重ねるごとに「知る・つながる・祝う」場へと変化してきました。そして、背景にある歴史や当事者の声を学び、次の一歩を考えるための機会として、企業や個人が関わる形も多様化しています。
日本でも広がるプライドの輪――東京レインボープライドからTokyo Prideへ
日本でも、LGBTQ+の可視化と権利擁護を目的としたイベントは1990年代から始まっています。特に1994年に初めて開催された「東京レズビアン&ゲイ・パレード」は、当時まだ「LGBT」という言葉すら一般的ではなかった時代に、多くの勇気ある人々が声を上げ、街を歩いた画期的なイベントでした。
その後、名称や主催団体、イベント形態を変えながらも活動は継続されてきましたが、毎年東京で開催されていたわけではありません。経済的・人的な制約や社会的風潮の影響により中断する年もありました。
しかしその間も、札幌や大阪、名古屋、福岡など日本各地の都市で同様のパレードが開催され、まるで“リレー”のように、誰かが必ずその火をともし続けてきました。
そして、2012年には東京で「東京レインボープライド(TRP)」がスタートしました。
TRPは、LGBTQ+をはじめとする性的マイノリティの人々の「存在の可視化」と「社会への理解促進」を目的にした、日本最大級のプライドイベントです。
初回は800人ほどの参加規模でしたが、年々規模を拡大し、近年ではパレードだけで1万人以上、関連イベントを含めると20万人以上が集う大規模なイベントへと成長しています。
その参加者はLGBTQ+当事者だけではありません。家族や友人、教育・医療関係者、企業・団体など、さまざまな立場の「アライ(Ally:支援者)」が参加し、多様性と尊重の輪を広げています。
日本のLGBTQ+関連イベントの特徴として、単なるパレードにとどまらず、周辺のブース出展やステージ企画、マーケット、ワークショップなどが非常に充実している点が挙げられます。
企業・団体・個人が協力してつくりあげるこの空間は、祝祭性に満ちつつも社会課題に触れる学びの場ともなっており、多様な来場者にとって「楽しさ」と「気づき」の両方を提供する貴重な機会となっています。
TRPもパレードをはじめ、代々木公園でのフェスティバル、多彩なトークイベントやライブパフォーマンス、企業・団体ブースなどが並び、誰もが楽しみながら「性の多様性」について考えるきっかけとなる場となっています。
これまで4月末の開催が定着していたTRPですが、2025年から6月開催となりました。これは、世界標準である6月のプライド月間との接続を意識した変更だと言われています。
海外の当事者やアライの中には、6月に実施される世界各国のパレードをツアーのように巡ることをライフワークや生きがいにしている人もいます。そのような人々にとって、開催時期を諸外国に合わせることで、より参加しやすくなったと言えるのではないでしょうか。
また、日本の多くの学校や企業にとって、4月は入社・異動・新年度など、大きな環境変化が集中するタイミングです。人事や現場が多忙になりがちな時期ではなく、少し落ち着いた6月に実施されるようになったことで、参加する側・出展する側の双方にとって、より余裕をもって関わることが可能になるかもしれません。
そして開催時期だけではなく、名称も「Tokyo Pride」に変更されました。この変更は、LGBTQ+コミュニティ内の多様性をより包括的に捉え、すべての当事者のアイデンティティを尊重する意図が込められているそうです。
世界のプライドパレードの名称の多くは「都市名+プライド(Pride)」となっており、諸外国の人々にとってもより親しみやすくなったと言えるでしょう。
この変更によって、より長期的に、多様な立場の人々が関わりやすいイベントへと進化することが期待されています。
企業としてプライドパレードに参加する意義とは?
近年では多くの企業がプライドパレードにブース出展や社員参加を通じて関わるようになりました。企業としてこのパレードに参加することには、どんな意義があるのでしょうか?
まずひとつは、「誰もが尊重される職場づくり」に本気で取り組んでいると社内外に示すことができるという点です。単なる理念ではなく、具体的な行動として「LGBTQ+を尊重する職場文化を築いていく意思」を示すことができるでしょう。
プライド月間は、LGBTQ+に関する取り組みを“年に一度可視化する機会”であると同時に、社内外に「この会社は何を大切にしているのか」を伝える絶好のチャンスでもあるのです。
また、当事者の社員や就職希望者にとっては、企業がパレードに関わる姿勢そのものが「安心材料」になるかもしれません。
例えば、会社としてプライドパレードに出展した、ボランティアに関わった、有志で見学に行った、などの実績を社内外の広報で発信すれば「この会社は味方なんだ」と知ってもらえます。
「この会社なら、自分を偽らずに働けそう」と思える環境づくりは、採用・定着にも好影響を与えるのではないしょうか。
さまざまな参加方法―アライの「可視化」の力
パレードの参加の方法は、一緒に歩くだけではありません。沿道で応援の旗を振ったり、拍手を送ったりすることも、大きな意味を持ちます。企業の中には、パレードに参加する人々の勇気を称えるため、そしてその企業がアライであることを可視化するために、敢えて沿道でまとまって応援するというスタイルを取っているところもあります。
とくに、アライの「可視化」は大切です。LGBTQ+当事者の多くは日常生活で孤立を感じる場面が多くあります。「応援してくれる人がこんなにいる」「自分を支えてくれる人がこんなにもいる」と目で見て感じられることは、言葉にできないほどの励ましになるでしょう。
「LGBTQ+に理解がある」「話を聞いてくれそう」と感じられる人が世の中に居ると知るだけで、安心感が生まれます。これにより、日々のちょっとした悩みや相談事を誰かに打ち明けやすくなり、孤立感の軽減にもつながるのではないでしょうか。
上記のように、たとえ声をあげるのが難しくても、「見守っているよ」「あなたを大切に思っているよ」という姿勢は、沿道からでも伝えることができます。
パレードを歩いている人はそれを見て、とても勇気づけられるでしょう。そしてその姿を見た他の誰かが、「自分もアライになりたい」と思うかもしれません。可視化が可視化を生む――それがプライドパレードの持つ力です。
しかし、もしかすると最初は、沿道から声援を送るのも少し勇気が必要かもしれません。「自分なんかが参加していいのかな」と感じる方もいるでしょう。
それでも、心のどこかで「関心がある」「なにか感じたい」と思っているなら、足を運んでみませんか。
実際、多くのプライドイベントは、Tokyo Prideをはじめ、都市の中心部や繁華街で行われています。だから、どうしても気後れしてしまうなら、お店に用があるふりで近くを歩いてみたり、通りすがりのふりをしてみてもいいのです。
ほんの一瞬でも、プライドのエネルギーを感じることができたなら、それはもう立派な「参加」です。
あるいは、遠方に住んでいる、自分自身や家族の体調・事情で外出が難しいなど、現地に足を運ぶのが難しい場合もあるでしょう。そんなときでも「参加」する方法はあります。
たとえば、SNSでパレードの情報をシェアすることもひとつ。自分の言葉で感想や応援の気持ちを発信するだけでも、あなたの「関心」は確かに届きます。周囲の誰かがそれを見て更に関心を持ってくれるかもしれません。
また、オンラインで開催される関連イベントや配信を視聴したり、プライド月間に合わせてLGBTQ+に関する書籍や映画に触れたりするのも立派な行動です。理解を深めようとするその姿勢自体が、すでに「アライとしての一歩」です。
パレードに「いない」からといって、あなたの気持ちが届かないわけではありません。それぞれのやり方で、それぞれの場所から。小さな行動の積み重ねが、大きなうねりになっていきます。
今からでも遅くない。プライド月間は“期限”ではなく“きっかけ”
この記事を読んでいるのが6月の半ば、あるいは終盤であったとしても、「もう間に合わない」と思う必要はないでしょう。
プライド月間はたしかに6月に設定されていますが、LGBTQ+に関する取り組みは、7月でも、9月でも、いつ始めても良いのです。実際に、企業によっては7月や10月にD&Iウィークを設けたり、社内の気運が高まったタイミングでアクションを起こすケースも増えています。
特に最近は、6月になるとニュースや街なかの広告、SNSなどを通して「プライド」や「LGBTQ+」という言葉を目にする機会がぐっと増えています。そのタイミングで“気になっていた”という方向けに、7月以降に、下記のような取り組みを実施してもよいでしょう。
【例】
- LGBTQ+基礎知識セミナーやアライ勉強会を開催する
- 「プライド月間で気づいたこと」をチームで共有してみる
- プライド月間で学んだ各社の取り組みを参考に、自社に落とし込んでみる
- 来年度の取り組みに向けたヒアリングや社内公募を始める
- 主体的に行動してみたい!と思った人を巻き込んでERGを組織する
といったように、小さな一歩から始めることができます。
また、日本全国では年間を通じてさまざまな地域でプライドイベントが開催されています。東京だけを基準とせず、札幌(9月)や大阪(10月)、福岡(11月)など、地域に根ざした活動に学ぶことも大切なのではないでしょうか。
全国各地で連綿と続く声を知ることは、中央集権的な視点に陥らず、多様性を本質的に理解するうえで欠かせない気づきとなるかもしれません。
そして、何より大切なのは、「プライド月間」だけが特別なのではないということです。
LGBTQ+の人々は、6月だけでなく、他の11か月も、毎月・毎日を生きています。偏見や差別に起因する困難は、365日いつでも起こる可能性があるのです。
だからこそ、6月に盛り上がった機運や関心を、上記のように、一度きりの「イベント」で終わらせない継続的な取り組みとして、ぜひ他の月にもつないでみてはいかがでしょうか。
反DEIの波と、それでも取り組む意義
一方で、世界的にはDEI(多様性・公平性・包括性)に対する逆風もあります。アメリカの一部の企業では大統領令を受け、プライドパレードへの参加を辞める動きも出ています。
冒頭でご紹介したストーンウォール・インは2016年、その歴史的価値が認められ、アメリカ初のLGBTQ+関連の国定史跡に指定されました。
ところが2024年、国立公園局(NPS)の公式ウェブサイトの説明文から“トランスジェンダー”や“クィア”といった言葉が削除されるという出来事が起きました。
こうした事態は、「なぜプライド月間が必要なのか」「なぜ記憶を語り継ぐことが重要なのか」を、改めて私たちに問いかけているとも言えるでしょう。
歴史を知ることは、今を守ることにもつながると言えます。企業としてこの月間に「分断ではなく連帯を」という姿勢を発信することは、社会へのメッセージであると同時に、不安を抱える当事者やアライを照らす光となり得るのではないでしょうか。
まとめ
プライド月間は、LGBTQ+の人々とともに「自分らしく生きられる社会」を目指すための、年に一度の大切な機会です。そしてそれは、企業にとっても「多様性をどう捉え、どう行動するか」を考える節目となり得ます。
「パレードに参加する」と聞くと、少しハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。けれども、最初の一歩はどんな形でも構いません。
職場でアライを表明する、小さなレインボーバッジをつける、応援の気持ちを言葉にして伝える、プライドパレードの話題を出してみる……そのどれもが、LGBTQ+の人々にとってかけがえのない支えになるのではないでしょうか。
パレードは、過去から未来へつながるバトンのようなものです。私たちの今日の一歩が、10年後の誰かの自由や選択肢を広げるかもしれません。
今年、東京で、また各地で開催されるプライドパレード。企業の一員として、あるいはひとりの人間として、この場に関わる意味を今一度考えてみてはいかがでしょうか?
株式会社アカルクでは、LGBTQ+に関する情報発信から、制度設計や採用支援、人材育成、社内方針の策定まで、ワンストップでサービスをご提供しています。
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