多様性の重要性が高まるなか、企業としてLGBTQ+への理解を深める取り組みが注目されています。職場における社員の偏見が、ハラスメントや離職といった問題につながることも少なくはありません。安心して働ける環境づくりが求められるなかで、多くの企業が「LGBTQ+研修」を導入し始めています。
前回のブログではLGBTQ+研修を導入する流れや導入する際の課題、より効果的な研修の選び方について、「企業が今、LGBTQ+研修を導入する前に知っておきたいこと」を紹介しました。
本記事では、LGBTQ+研修の重要性や目的、導入によって得られる効果を解説しながら、なぜLGBTQ+の研修が求められているのかを解説します。
LGBTQ+研修の重要性
LGBTQ+への理解不足は、無自覚な差別やハラスメントにつながることがあります。たとえば、日常の会話のなかで悪気なく使われた言葉が、当事者を深く傷つけてしまうこともあります。企業にとって、こうしたリスクを防ぐためにも、社員一人ひとりが正しい知識を持つことが欠かせません。
日本では近年、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方が急速に広まり、多様性を認める企業文化の構築が重要視されています。LGBTQ+研修はその一環として注目されており、人的資本経営を意識する企業が増えるなか、研修の実施は企業価値の向上にもつながります。
LGBTQ+研修実施の主な3つの目的
なぜ、企業はLGBTQ+研修を取り入れる必要があるのでしょうか。
その背景には、職場における無理解の解消、多様性を尊重する組織づくり、そしてすべての社員が安心して働ける環境の実現といった、複数の目的があります。
ここでは、LGBTQ+研修が果たす3つの主要な役割について紹介します。
理解促進
まず重要なのは、LGBTQ+に関する正確な知識を得ることです。
性的指向や性自認についての基礎知識が不足していると、悪意がなくても差別や偏見につながる行動が生まれてしまうことがあります。研修では、当事者の声や実例をもとに具体的な場面での対応を学ぶことで、職場で求められる配慮を具体的に理解できます。
直接的な差別的発言はなくても、「男らしさ」「女らしさ」を気にするような発言は、LGBTQ+当事者に限らず押しつけられたくない、職場ではわざわざ言われたくない方もいます。そのような発言に気づくキッカケとなりハラスメント防止にもつながります。
ダイバーシティ推進
LGBTQ+研修は、多様性を受け入れる企業文化の基盤をつくる役割も担います。
企業としてダイバーシティを推進することは、社員の満足度やエンゲージメントを高めるだけでなく、採用力や企業イメージの向上にも直結します。
アカルクが就活生に対して行った「LGBTQ+に関して企業がどういう取組みを行っていたら働いてみたいと思うか?」というアンケート調査では、「性自認に合わせた選択肢がある(17.0%)」「トイレや更衣室など設備において利用上の配慮がされている(14.4%)」に次いで、「社内研修を実施している(12.9%)」が3位となりました。
※出典:株式会社アカルク調査
(ダイバーシティ就活EXPO アカルクブース来場者アンケート集計2025)
とくに若年層の就職活動においては、「アカルクブース来場者アンケート集計」にも示したように、LGBTQ+に関する企業の取組みが企業選びの判断材料になることもあります。研修を通じて明確な姿勢を示すことで、社会的信頼の獲得にもつながります。
職場環境の改善
LGBTQ+当事者に限らず、すべての社員が自分らしく働ける環境を整えることは、現代の組織運営における重要なテーマです。
「ちょっとした配慮」が積み重なることで、組織全体の心理的安全性が向上し、風通しのよい職場が実現されます。
2023年に施行されたLGBT理解増進法では事業者側の努力義務として、「研修の実施・普及」が定められています。
また、職場におけるLGBTQ+への取り組みを評価する「PRIDE指標」においては、次のような研修に対する指標が設定されています。
- 人事、面接官、リクルーター、採用担当者、管理職、経営層を対象に、それぞれに特化した内容による研修の実施
- 研修には、カミングアウトを受けた際の対応が含まれている
- 研修には、SOGIハラの内容が含まれている
- 研修には、読む・聞くだけでなく、学びを深めるための参加型の演習が含まれている
また、「戸籍上の同性パートナーがいる従業員向けの制度があるか」「性別で分けられるサービスや施設等にて本人が希望する性を選択し利用できるか」といった具体的な職場環境における指標もあり、これらを達成していくことで外部に対しても企業の姿勢を明確に示す手段となります。
他にも、社内の具体的なものとして、必要のない書類からは性別欄を撤廃したり、任意性で選択できるようにする、回答しない、自由記述などの他の選択肢を設けるといった取り組みは、理解から生まれる制度設計の一例です。
正しい知識が、思いやりある行動へとつながります。
さらに、性別にとらわれないトイレの設置、ジェンダーに配慮した言葉づかいの見直し、相談体制の整備など、制度・意識の両面からのアプローチが求められます。
LGBTQ+研修は、こうした取り組みを促進するきっかけとなります。
LGBTQ+研修の効果
LGBTQ+研修を受けることで得られる最大の効果は、単なる知識の習得にとどまらず、社員一人ひとりの「行動」が変わることです。
正しい情報と当事者の実体験を学ぶことで、漠然とした理解から一歩踏み込んだ「具体的な配慮や言動」へとつなげることができます。
たとえば、呼び方に気をつける、無意識の偏見に気づくといった日々の行動が変わることで、LGBTQ+当事者だけでなく、誰もが安心して働ける職場づくりが進んでいきます。
こうした行動変容は、社員の心理的安全性を高めるだけでなく、組織全体の信頼やチームワークの向上にもつながります。
実際に有職者1万人を対象としたアンケート調査でも、「研修の実施」が職場環境向上のために望まれる取組みの上位に挙がっています。
※出典:株式会社アカルク、株式会社アスマーク共同調査
(2024年8月7日~ 8月21日に行った有職者1万人を対象とした職場におけるLGBTQ+調査)
また、多様性を尊重し合う環境が育まれることで、従業員満足度の向上や、企業ブランドの強化といった副次的な効果も期待できます。
LGBTQ+研修は、当事者のためだけのものではありません。すべての人が安心して自分らしく働ける環境をつくるための、一歩となる取り組みです。
企業が得られるメリット
LGBTQ+への理解が深まることで、社員同士の信頼関係が育まれ、誰もが働きやすいと感じる職場環境が整っていきます。その結果として、社員の満足度が高まり、離職率の低下や採用力の向上といった具体的な成果が期待できます。
さらに、SDGsや人的資本経営への対応が求められるいま、ダイバーシティを推進する企業の姿勢は、投資家や社会からの評価にもつながります。ESG投資の観点からも、LGBTQ+研修の実施は重要な戦略の一つといえるでしょう。
社員が得られるメリット
研修を通してLGBTQ+に関する正しい知識を得ることで、社員は無意識な差別や偏見、ハラスメントを未然に防ぐ意識を持つようになります。自身の言動に対する気づきが生まれ、思いやりをもった行動へとつながっていきます。
研修を受ける社員の中にもLGBTQ+当事者がいるかもしれません。職場での理解や配慮が進んでいくことで、無意識な差別や偏見、ハラスメントを受けにくくなり安心して働ける職場環境が整います。
また、自分と同じような経験をしている人がいることを知ったり、様々な性的指向や性自認の人がいると理解することで、孤独感を軽減し自己肯定感を高めることにもつながります。
他にも、当事者ではない社員にも「アライ(支援者)」としての意識が芽生え、当事者が孤立しない職場づくりに貢献するきっかけとなります。全員が安心して働ける環境の実現に向けて、一人ひとりの行動変容が起きることこそが、LGBTQ+研修の大きな価値です。
LGBTQ+研修受講者の声
LGBTQ+研修を受講した方が、受講前と受講後でどのような意識変化があったのか、実際に受講された方の声として紹介します。
- 受講前はLGBTQ+について正直あまりわかっていませんでした。研修を通して当事者の方が置かれている状況や心情などがわかり、改めて個の考え方の違いを理解しました。個として受け入れること、思いやることの大切さを実感しました。
- LGBTQ+に関わる取組みについて、正直何をしたら良いか悩んでいました。研修を受講してどのような取組みや対応が必要なのかがわかり、自社の現在地を正しく知り、取り組んでいきたいと思いました。
- 最新の当事者を取り巻く環境を知り、これまで知っているつもりになっていた自分を反省しました。企業として取り組む理由を考えることで、自身の業務とも連動して変えていけることがあると思いました。
- カミングアウトする当事者としない当事者の理由を知ることができ、これからは声をあげることができない人であっても、個々に適切な関係でいられるような職場を作っていきたいと実感しました。
多くの受講者が「知ること」「考えること」「取り組んでいくこと」の重要性に気づき、それぞれの立場からできる行動につなげることができています。安心して働ける職場環境をつくるには、まず一人ひとりが日々のコミュニケーションや行動の中で思いやりと尊重を実践していくことが大切です。
LGBTQ+研修がその第一歩となり、誰もが自分らしくいられる職場環境づくりへつながっていきます。
アカルクの研修実績
アカルクでは、企業、学校法人、独立団体などさまざまな業界でLGBTQ+研修を提供してきました。研修実施回数はじつに400回以上。受講者数は3万人超を誇ります。
実際の受講者からは、以下のようなお声をいただきました。
- 当事者の体験を交えた講師の話により、LGBTQ+の状況や心情への理解が深まり、多様な考え方を受け入れる大切さを学べた
- 身近に当事者がいるかもしれないという意識を持ち、思いやりをもって周囲と向き合う姿勢を育むきっかけとなった
アカルクの研修は、オンラインでの実施やeラーニングにも対応しており、企業様のスケジュールに合わせた柔軟な研修設計が可能です。講師陣も、LGBTQ+当事者や長年の支援経験を持つ専門家で構成されており、現場に即した実践的な内容が好評です。
研修の目的設定から各社の状況や社風に応じた実施方法の提案も行いますので、興味のある企業様はまずはお問合せ下さい。
まとめ
本記事では、LGBTQ+研修の重要性や目的、期待できる効果、そして企業や社員にもたらすメリットについて紹介してきました。職場における無理解や偏見を防ぎ、多様性を尊重する組織づくりに向けて、LGBTQ+研修は有効な一歩となります。
また、企業と社員の双方にとって大きな価値をもたらすこの研修は、信頼される企業文化の土台となり、長期的な組織成長にもつながっていきます。
株式会社アカルクでは、LGBTQ+に関する制度設計や採用支援、人材育成、社内方針の策定まで、ワンストップでご支援しています。
LGBTQ+研修の導入を検討中、または一度話を聞いてみたいと思われるご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。