多様な人材が活躍できる職場づくりを推進していくなかで、LGBTQ+当事者が抱える課題が少しずつ見えるようになってきました。
しかしながら、具体的にどのような人事制度が必要か、人事担当として模索している方も多いでしょう。
本記事では、人事担当者が知っておいた方が良いLGBTQ+当事者に関する社内制度や具体的な活用事例をご紹介します。
誰もが自分らしく働ける職場づくりのヒントを一緒に考えていきましょう。
人事が押さえておきたいポイント
人事担当者は、企業規模によっても業務範囲は異なりますが、採用から入社、ご縁があった場合は、LGBTQ+求職者の相談にのることもあります。継続的にそして適切なサポートが求められやすい職種です。
入社前のことは、【採用担当者向け】LGBTQ+に配慮した採用とはをご一読ください。
本記事では入社時のフォローアップ、そして入社後の労務管理や社内制度の整備を中心にお伝えします。
これらの段階でLGBTQ+当事者が不安に思う気持ちや疑問を解消できるような制度の見直し、職場環境の改善を進めることが求められます。すべての従業員が安心して働ける環境をつくることが、企業の持続的な成長にもつながります。
入社時
まず最初に、入社時に気を付けたいことです。
入社時の手続きでは、書類提出や配属部署の連携など、さまざまな対応が必要です。
■提出書類の性別欄の取り扱い
各社入社時の提出書類は異なるかと思いますが、手続きを行ううえで公的な書類提出も求める場面(例えば、マイナンバー、健康保険被扶養者異動届・国民年金第3号被保険者届、住民票記載事項証明書等)取り寄せた書類によっては、性別欄が書類上記載されているものもあるため、取り扱いや保管の仕方にはより注意が必要です。
本人が入社時の段階でカミングアウトをしており、手続き面以外では知られたくないという場合は、その他の管理方法はないのか、社内システムで一律管理の場合は本人と相談しながら決めることが配慮に繋がります。
その他必要に応じて、性自認や戸籍上の性別を確認することもありますが、提出を求める際には「任意記入」であることを強調し、プライバシーを尊重する姿勢を示します。
■入社前研修や面談での対応
入社前研修でも、人事担当者向けにLGBTQ+に関する研修を実施していると、慌てることなく対応や配慮もしやすくなります。
また、本人がカミングアウトをしており面談を希望する場合は、担当者が個別に面談を行い、相談したり不安を軽減できる体制を整えることも1つの施策に繋がります。
■配属部署との連携
配属部署に業務上、伝える必要がある場合は、本人の意向を踏まえたうえで、範囲、タイミング、仕方についてヒアリングします。カミングアウトのスタンスはそれぞれ異なるため、無理にオープンにしてもらう必要はありません。
一番は本人のカミングアウトの可否に関わらず、普段から誰もが働きやすい職場環境を作るうえで、D&IやLGBTQ+に関する研修や知る機会を作り、社員全体の意識改革を促すことも有効です。
入社後
2つ目に、入社後に留意したい事柄です。入社後は、労務管理や社内制度、異動・転勤などに関する配慮が必要です。
■労務管理
HPや就業規則には「性的指向や性自認に基づく差別を禁止する」旨の条項があるとより安心感に繋がります。これにより、差別的な言動を抑止し、職場でのハラスメントを防ぐ効果が期待できます。
また、同性パートナーや事実婚の方にも異性婚の配偶者と同様の福利厚生が適用できると、より多様な従業員が制度を利用しやすくなります。
■社内制度の利用時
ホルモン治療や性別適合手術を受ける従業員には、勤務計画や休暇制度で柔軟に対応する必要があります。
通院や手術のスケジュールを考慮し、業務量や一部体への負荷が高い業務の場合であれば、調整することで、治療と仕事の両立を支援しやすくなります。
■異動・転勤・出張・出向・社宅・社員寮
異動や転勤、出張の際には、宿泊施設や更衣室の利用、健康診断の対応など、細かな部分にも配慮が必要です。
例えば、トランスジェンダーの社員が宿泊を伴う出張や研修で男女別の部屋が充てられるとなった場合です。治療状況や人によっても異なりますが、本人が希望する場合、個室の手配や同性の同僚と同室にならないよう配慮することも重要になってきます。
その他にも、健康診断であればかかりつけ病院で結果だけ持ってきてもらう、時間をずらすなど、選べる選択肢があると安心して働きやすくなります。
大前提にすべてが本人の希望通りにはいかないこと、できないこともあるかと思います。だからこそ、対応をしていく上では、本人の意向を尊重しながら企業としてはどこまでなら対応できるのかも、相談しながら進めるということがポイントになります。
その他の他社事例
その他、企業が直面しやすい具体的な場面を通して、どのような対応が求められるのかを見ていきます。
人事異動に関して
部署内でカミングアウトしていた従業員について、同僚から「コミュニケーションに支障がある」として異動を求められた場合、本人の意思がない状態で、性自認や性的指向を理由に一方的な理由で不当な異動を行うことはできません。
一方で本人がカミングアウトや戸籍変更を行った後に、本人希望のうえ業務上の影響があった場合、相談や状況を加味した上、一定期間あるいは状況によっては異動を行うケースもあります。
福利厚生に関して
同性パートナーと同居を始めた従業員が、慶弔見舞金の対象にならないか相談した場合、現状は法律婚が基準となった規定の場合でも、その声をキッカケに配偶者の定義や申請方法の見直しを検討する企業もあります。
とはいえ、声を上げるハードルはあるので最初から整備しておく方が、申請はされやすく心理的安全性も高まります。
通称名に関して
当事者の方に限らず旧性を利用したいという声はよくあります。
トランスジェンダーの方で、改名をしていなくとも通称名で働きたいとなった場合、名刺やメールアドレス、社員証などどこまでであれば通称名でも問題ないか、逆に労働者名簿や社内システム上どこまでは本名での登録になるのか、またそのアクセス権は誰まで開示されるかなども事前に整備しておくことも1つの働きやすさに繋がります。
定期健診に関して
ホルモン治療を行っているトランスジェンダーの従業員から、「男女別の定期健診を受けたくない」という相談が寄せられた場合、企業は労働安全衛生法に基づき健康診断を受けさせる義務があります。
しかし、時間や場所、受け方を工夫するなどの配慮が求められます。
相談を受けた際の対応
LGBTQ+当事者が職場における悩みに直面した際、人事部を思い浮かべるかもしれません。
そのような場合に備えて、適切な対応ができるよう、以下のポイントを押さえましょう。
相談先の提示
企業によっては、職場の上司や人事に相談することはハードルが高いケースもあります。
場合によっては当事者ではなく、相談を受けた従業員が誰かに相談したいというケースもあります。そのような場合は、どこに相談すればいいのかを可視化させることも重要です。
現状、社内に相談窓口がある場合は、こうしたセクシュアリティが関係して働きづらさの要望やカミングアウトを受けた際の対応の相談も対応できることを発信したり、社内で設置できない場合は社外で設けることも1つの配慮に繋がります。(アカルク社外相談窓口)
開示範囲の確認・情報の取り扱い
性的指向や性自認に関する情報は、本人の同意なく第三者に伝えることはアウティングとなり、絶対にしてはいけない行為です。
何らかの事情や手続きの問題があって誰かに伝える必要がある場合は、、誰にどの程度の情報を共有しても良いか、相談者の意向を確認しましょう。
これにより、相談者のプライバシーを尊重し、信頼関係を維持することができます。
こうした個人情報の取り扱いに関する企業ポリシーを明確にし、全従業員に周知徹底することも重要です。
制度面だけではない個別配慮
LGBTQ+当事者が直面する課題はさまざまであり、制度を整備していても個別対応が必要であることも多々あります。
たとえば、トランスジェンダーの従業員が性別適合手術を予定している場合、休暇の取得や業務の調整など、相談者の職種や個別の状況に応じた柔軟な対応が求められます。
人事部門は、相談者のニーズや状況を丁寧にヒアリングし、適切で最適なサポートを検討しましょう。また、必要に応じて外部の専門家の意見を取り入れることも有効です。
まとめ
本記事では、人事担当者が入社時、入社後とそれぞれの場面において知っておきたいポイントをそれぞれ解説しました。制度を実際整備しても使われないという声はよく耳にします。
それは当事者がいないのではなく、いても利用しづらい内容になっていたり社内風土も影響します。
株式会社はアカルクは、ダイバーシティ推進のための取り組みをはじめ、LGBTQ+の方がどのような事に配慮が必要なのか、多様性を意識した採用コーチングから、入社後のガイドラインの策定、制度構築、運用を一気通貫で行う人事コンサルティング、キャリア支援といったプロデュース事業を展開しています。
制度の導入や、同性パートナーへの福利厚生適用など、社外相談窓口としての役割も担い、具体的な施策を通じて職場のダイバーシティを促進します。
LGBTQ+に対応する制度について理解を深めたいとお考えの人事担当者の皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。