近年、企業におけるダイバーシティとインクルージョンの重要性がますます認識される中、LGBTQ+への取り組みが注目を集めています。多様性を尊重し包括的な職場環境を作り出すことは、企業の社会的責任を果たすことに繋がるのはもちろん、従業員の満足度や生産性を向上させるだけでなく、企業のイノベーションと競争力を高める鍵となります。

本記事では、企業の人事・ダイバーシティ推進担当者向けに、2024年に話題となった、特に注目すべき日本企業のLGBTQ+関連の話題を10個ピックアップしてご紹介します。

 

企業の取組み

具体的な事例から、最近話題になった企業の取り組みを振り返っていきましょう。

 

明治 「マーブルパウチダイバーシティパッケージ」発売

株式会社明治は今年のバレンタインに合わせて、ロングセラー商品「マーブル」の特別パッケージ版を発売しました。パッケージには様々な人種や肌の色、性別、年齢、身長、体型、車椅子ユーザーや、ヒジャブを身につけている人など、多様な人々が描かれていて、皆が仲良く手を繋ぎ、歌いながら歩いています。

従来、日本のバレンタインデーと言えば女性から男性へ送る風習があり、LGBTQ+当事者の中には楽しめない人もいました 。しかし、この商品を通して多様なセクシュアリティや価値観に寄り添い、バレンタインデーが「より多くの人に楽しんでもらえる日」となることを願い、社内のLGBTQ+アライコミュニティが中心となって企画したとのことです。

このように日本の企業が人気商品を通じLGBTQ+アライとしてのメッセージを発信することは、社会を変える大きな力となるのではないでしょうか。

 

日本テレビ 「カラフルウィークエンド」実施

日本テレビは今年の2月に、楽しく多様性にふれることができるキャンペーン「Colorful Weekend」(カラフルウィークエンド)を初めて実施しました。
このキャンペーンは、LGBTQ+当事者や障がいのあるメンバーなど、多様な社員たちにより企画・提案されたものです。

「ひとりひとり違う私たちがお互いを知り、誰もが自分らしく生きられるヒントを届ける」というテーマにそって「楽しく多様性にふれることができる、カラフルな週末」が3日間にわたって展開されました。

音楽特番「世界を変えたアーティスト」報道特番「Colorfulライフラリー ~人生ってみんな違ってスバラシイ~」の2つの特別番組を放送。さらに、レギュラー放送中の12の番組が参加し、番組ごとのさまざまな視点で「楽しく多様性にふれることができる、カラフルな週末」というテーマに沿う内容を放送しました。

その結果、同局が社会的インパクトを測定した事後調査によると、番組視聴による意識の変化として、「勇気をもらえた」「希望が湧いた」と回答した人が、マイノリティー性を自認する視聴者(顕在的当事者)の8割超となりました。
全国ネットのキー局がこのような取り組みを行うことで、都市部の当事者はもちろん、より厳しい状況に置かれていると言われる地方の当事者も強く勇気づけられたことと思います。

 

ランスタッド ED&Iを議論する船上シンポジウム&交流会を開催

ランスタッド株式会社は今年の5月に、横浜と神戸に停泊する帆船の上で「誰もがいきいきできる職場づくり、ジェンダーバランスを実現する」をテーマに、地元企業等を招き複数のシンポジウムを開催し、同性婚法制化等のED&I(エクイティ、ダイバーシティ&インクルージョン)への理解促進活動を展開しました。

シンポジウムでは年齢・性別・国籍・障害・性的指向などを問わず誰もが心地よく働き、本来の力を発揮できることの重要性を発信しました。ランスタッドは同性婚が世界で最初に法制化されたオランダに本拠を置く総合人材サービス会社で、誰もが自分らしく生き生きと働ける公平な職場環境を重視しています。この活動はそうした日頃の活動の延長線上で実施したとのことです。

豪華客船の華やかな雰囲気の中、包摂へのポジティブなメッセージが発信されたことは、参加した企業の人事やダイバーシティ担当者に、自社や社会を変えていく原動力を与えたのではないでしょうか。

 

資生堂 LGBTQ+当事者向けに全国各地でメイクアップ講座等を開催

株式会社資生堂はLGBTQ+の方を対象に、より「自分らしさ」を表現する手段として、東京・名古屋・大阪でメイクアップ講座やスキンケアのポイントレクチャーを開催しました。

当事者の「店頭に足を運ぶのは勇気がいる」という悩みに真摯に寄り添い、心理的安全性を高めるため、専門の美容アドバイザー(PBP)にLGBTQ+応対研修を実施しているそうです。資生堂の掲げる企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」の実現に向け、画一的な美の基準から脱して、すべての人がその人らしい美しさを表現できるよう今後も注力していくとのことです。

メイクアップの魅力を活かす取り組みは、当事者の「もっと自身が望む自分になりたい」という願いを叶える大きな手助けにつながることと思います。

 

ZOZO、LVMHフレグランスブランズ、ReBit 3社合同でLGBTQ+当事者向けにパーソナルスタイリング体験会を実施

ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZO、GIVENCHY BEAUTYを展開するLVMHフレグランスブランズ株式会社、LGBTQ+当事者の方々を支援する認定NPO法人ReBitは、3社共催でLGBTQ+当事者の「自分らしいスタイルを楽しむ」を応援するパーソナルスタイリング体験会を「niaulab by ZOZO」(以下、似合うラボ)で実施しました。

似合うラボは、2022年にオープンしたZOZO初のリアル店舗で、超パーソナルスタイリングサービスを提供する貸し切り空間です。3社の「自分らしいスタイルを楽しむ」ことを応援したいという共通の想いにより、本企画が実現しました。

企画では「東京レインボープライド2024」に合わせ、超パーソナルスタイリングサービス、ヘアメイク、LGBTQ+やダイバーシティへの専門性を組み合わせて、望むジェンダー表現に沿うコーディネートを提案し「ジェンダーバイアスのない空間で安心してファッションを楽しむことができ、勇気を与えられた」と参加者にも非常に好評だったようです。3社は今後もLGBTQ+を含めたすべての人たちが自分らしいスタイルを通じて尊厳をもち、自身を表現していくことをサポートしたいとのことです。

この取り組みは、全ての人が年齢やSOGIに関係なく自由にファッションと美容を楽しめる一助となるのではないでしょうか。

 

ACTION30

企業から日本社会を変えていくために、パナソニックコネクトとプライドハウス東京が共同企画し、20の企業・団体が連携した企業連合プロジェクトです。1日1個、LGBTQ+当事者の方々への理解と支援を示す気軽に取り組める計30個のアクションをPRIDE月間の始まりである2024年6月1日の新聞広告で提案し、実施を促すことで、具体的にどんなことをすればよいか「皆で共に学んでいくキッカケ」を提供しました。

この広告は大きな反響を呼び、パナソニックコネクト社のSNSでは通常の投稿よりも表示回数や反応が大幅に増加したとのことです。また、広告としての評価も高く「30個のアクションのいずれもがおざなりではなく、腹落ちするような内容になっていて、色々と気づかせてくれることが多かった」として、第73回日経広告賞のパーパス・ESG部門で最優秀賞を受賞しました。

当事者にとって勇気づけられる取り組みであっただけでなく、ALLYにとっても「理解する」から一歩進んで「行動する」に繋げる具体的なヒントとなったのではないでしょうか。

 

ファミリーマートとコカ・コーラ ボトラーズジャパンがALLYメンバー協働イベントを開催

株式会社ファミリーマートとコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社は「国際カミングアウトデー(National Coming Out Day)」である2024年10月11日に協働イベントを開催しました。

両社は「多様性をちからに」をテーマに、2023年からD&I分野における協働を開始しており、2年目となる今年は両社のALLYが中心となってそれぞれの取り組みを報告したほか、女装パフォーマー/エッセイストのブルボンヌさんをゲストに招き、来年のプライド月間に計画している協働プロモーションのデザイン案について協議しました。

サステナビリティ分野においては、各企業が共通する課題に対して、それぞれの専門知識を持ち寄り協力することが特に効果的であるとされています。先進的なLGBTQ+への取り組みを行ってきた両社が継続的に協働することで、更に理解・可視化が進むことが期待できると思われます。

 

ドローンショー・ジャパン 能登復興支援・金沢プライドパレード応援 ミニ・ドローンショー実施

株式会社ドローンショー・ジャパンは、今年の10月に実施された「金沢プライドウィーク2024」へ特別協力としてサポートを行い、東アジア初と言われるLGBTQ+支援を盛り込んだドローンショー「能登復興支援・金沢プライドパレード応援 ミニ・ドローンショー」を開催しました。

ドローン100機の低空飛行によるドローンショーでプライドフラッグを夜空に描き、多様性の尊重とインクルージョンな世界を目指す願いを表現しました。

近年「防災とダイバーシティ」についての課題が注目されてきています。災害時の支援はスピードとボリュームが優先されるため、マイノリティへの配慮が後回しになりがちです。どのような状況にあっても、LGBTQ+を含め誰も取り残されることのないよう、平常時から継続してマイノリティの存在を可視化し、理解を広げ、様々なセクター間の協働関係を築いておくことが非常に重要だと考えます。

 

日本百貨店協会 「11月22日は、いいふうふの日~いろんなふうふにイイね!を贈ろう~」キャンペーン実施

日本百貨店協会が同性婚推進団体(公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に)とコラボし、「いいふうふの日(11月22日)」に合わせ、同性婚(結婚の平等)について知る・見る・考える多様性応援のための展示イベントを、新宿高島屋を中心に実施しました。

期間中、全国の百貨店にてLGBTQ+など性的マイノリティへの理解促進・啓発のため共通ロゴ・コピーを使用したサイネージ等のビジュアル展開の他、新宿高島屋にて「いいふうふの日」をテーマにしたパネル展示やトークイベントが行われました。

従来、”いい夫婦の日”として親しまれてきた日を、男女に限らず愛し合う全てのふうふを祝福するために、百貨店業界全体でLGBTQ+に関する理解促進・啓発活動を盛り上げました。
暮らしに寄り添い、地域社会にとって欠かせない存在である百貨店が発信することで、多くの人々に「多様な“ふうふ”があるのだ」という気付きをもたらしたのではないでしょうか。

 

同性婚法制化訴訟に関する企業の支持表明

現行法で同性婚を認めないのは違憲であると明示した東京高裁の判決(今後改めて取り上げます)を受け、各種新聞や企業がその判決についての支持を表明しました。その中でも大手芸能事務所が「東京高裁という、最高裁判所に次いで影響力を持つ裁判所がそのような判決を出したことの重みは計り知れないと思います」とする声明を発表したことは、当事者や訴訟の関係者に大きな希望につながりました。

日本のエンタメ業界は、LGBTQ+に関する表象を数多く扱いながらも、これまで他の業界に比べ積極的にアライとしての姿勢を示す企業は稀でした。

そのような中、大手事務所が明確に支持を表明したことは、当事者を勇気づけ、世論や政治に対してのポジティブな影響が期待できるという意味で画期的な出来事になったように思います。

 

まとめ

今回は2024年の企業のLGBTQ+に関する主な取り組みについてご紹介しました。
改めて、最近の傾向についておさらいしておきましょう。

  • 有名企業をはじめ、より多くの企業がLGBTQ+に関する取り組みを展開している
  • 複数の企業や自治体が利害関係を超えて連帯し、多くのステークホルダーを巻き込む協働型の取り組みも行われている
  • 日本企業のLGBTQ+に関する取り組みは、より社会への影響力を意識したものになってきている

重要なのは、LGBTQ+への取り組みに「正解は無い」ということです。企業はそれぞれの文化やバリューに基づき、その企業なりの最適な方法を模索し続けることが求められます。
2025年は日本企業もこれまで以上に揺れ動く世界情勢の影響を受けることが予想されますが、そのような中でこそ、より包括的で持続可能な社会を実現するに何が出来るか、企業ごとの軸を持って考えていきましょう。

株式会社アカルクは、ダイバーシティ推進のための取り組みをはじめ、LGBTQ+の方がどのようなことに配慮が必要なのか、多様性を意識した採用コーチングから、入社後のガイドラインの策定、制度構築、運用を一気通貫で行う人事コンサルティング、キャリア支援といったプロデュース事業を展開しています。
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