新年度を迎え、新たにDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)担当やLGBTQ+施策担当となった方も多いのではないでしょうか。
近年、LGBTQ+施策やDEI推進に取り組む企業が増える中で、「何から始めればよいのか分からない」「施策がうまくいかない」「研修をしても変化がない」といった課題を感じている担当者もいるかもしれません。
社内には必要最低限のベースが既にあり、一通りの研修や制度導入は済んでいる。それでもどこか、外からやってきた身として自社の施策の深度を客観的に捉えるとこれでは足りないと感じる。せっかく自分が来たからには、更に深めて真の「働きやすさ」「居心地の良さ」を形作っていきたいけれど、そのために何をすればよいのだろう。そんな戸惑いを覚えている方もいるかも知れません。
本記事では、新任担当者が現場で直面しやすいズレと、その背景にある構造、そして具体的な対策のヒントを整理します。
LGBTQ研修が効果につながらない理由(単発で終わる問題)

LGBTQ+施策やDEI推進において、まず取り組まれることが多いのが研修です。
受講率は高く(導入レベルの内容であれば必須研修の場合も多いです)、満足度アンケートの結果も悪くない。
参加者からも「勉強になった」「いい話だった」という声が上がっている。
それでも、数か月後に現場を見渡したとき、目に見える変化が起きていないと感じることがあります。
実際に私も、研修受講者との何気ない会話の中で、以前と変わらない言葉遣いや前提に触れたときに、「あれ、何も変わっていないかもしれない」と感じたことがあります。
これは決して珍しいことではありません。
多くの場合、研修が「単発のイベント」として完結してしまい、日常の業務や意思決定と切り離されていることが原因です。
もちろん、研修自体に意味がないわけではありません。
ただ、「その場で理解すること」と「日常の行動変容までつながること」は、やはり別の次元の話です。
知識として理解することと、行動が変わることの間には、想像以上に大きなギャップがあります。
研修の真の目的は、理解を深めるにとどまらず、日常の中での選択や振る舞いに変化をもたらすことにあるのではないでしょうか。
そのためには、
- 研修後の振り返りや対話の場を設ける
- マネジメント層と連動させる
- 日常業務の中に落とし込む
といった「点を線にする設計」が重要になります。
LGBTQ制度・相談窓口が使われない原因
・パートナーシップ制度
・ファミリーシップ制度、休暇制度、
・ハラスメントや人権に関する相談窓口
しかし、形式上は整っているにもかかわらず、利用されていない、あるいは存在自体が十分に認知されていないというケースは少なくありません。
私自身、あるとき、社員との雑談の中で「そんな制度あったんですね」と言われて、ハッとしたことがありました。
ここで重要なのは、「あること」と「使えること」はまったく別であるという点です。
・使ってもいいのか分からない
・周囲にどう思われるか不安
・前例が見えない
といった空気の中では、制度は「あるけれど使われないもの」になってしまいます。
使われる状態を作り出すためには、
・利用しても大丈夫だと思える心理的安全性
・利用することへの周囲の理解とその見える化
・実際に使われている前例周知
といった雰囲気、環境を整えていく必要があります。
DEI担当者が感じる不安と“正解がない”難しさ
そして見落とされがちなのが、担当者自身の内面にある壁です。
DEI、特にLGBTQ+に関する領域は、国の方針や人々の意見も揺らぎがあり、明快な「正解」はありません。
だからこそ、自身のこれまでの価値観とのギャップに戸惑ったり、「間違えたらどうしよう」「不適切な表現にならないか」と慎重になりがちです。
しかし、この領域において「完全な正解」は存在しません。
むしろ、試行錯誤しながらアップデートし続けること自体が、信頼につながります。
非当事者でもLGBTQ施策は推進できるのか?
担当者から、「自分は当事者ではないから、ニーズに気づけないのではないか」「他社の担当者は自身の当事者性を活かして活動しているのに、自分は違うから引け目を感じる」等、相談さることがあります。
非当事者だからこそ、できることもあります。
例えば、
・当事者が感じている違和感や困難を、多くの社員にどう伝えれば浸透しやすいかを考える
・特定の経験に依らず、客観的に制度や仕組みとして再現性のある形に落とし込める
こうした役割は、むしろ非当事者だからこそ発揮しやすい部分でもあります。
LGBTQ+施策やDEI推進は、一部の人だけが担うものではなく、組織全体で取り組むことが重要です。
LGBTQ施策は成果が見えにくい?担当者が感じやすい課題
LGBTQ施策やDEI推進の担当者からは、「やりがいを感じにくい」「自分の取り組みが成果につながっているのか分かりづらい」といった声が挙がることがあります。
感謝の言葉を直接受け取る機会や、分かりやすい変化を実感できる場面は、もしかしたら他の人事分野の領域より少ないかもしれません。
さらに言えば、この仕事は「成果が見えにくい」という難しさもあります。
売上のように数字で表れるわけでもなく、劇的な転換が起きるわけでもない。
「自分はちゃんと役に立てているのだろうか」と悩む瞬間もあるでしょう。
しかし、LGBTQ+施策やDEI推進の価値は、必ずしも短期的で分かりやすい成果や、直接的な反応だけで測れるものではありません。
むしろ、誰かが安心して働き続けられていること、違和感を抱えたまま声を上げられずにいる人が減っていること、そうした変化が静かに積み重なっていくことにこそ意味があります。
こうした取り組みは、心理的安全性の向上や離職防止、エンゲージメントの維持といったかたちで、中長期的に組織へ影響を与えていきます。
LGBTQ施策を進めるための3つのポイント
最後に、取り組みを前に進めるためのポイントを整理します。
- 施策を「点」ではなく「線」で捉えること
- 「正しさ」よりも「対話」から生まれる気づきを重視すること
- 完璧を目指すのではなく、小さく試してPDCAを回すこと
すでにある取り組みからどのようにバトンを受取り、どう加速させていくか。その視点が、LGBTQ+施策やDEI推進を前に進める鍵になります。
なぜLGBTQ施策は難しいのか(構造的な理由)
ここまで読んで、「分かってはいるけれど難しい」と感じた方もいるかもしれません。
それは、個人の努力不足ではなく、構造的な要因によるものです。
①担当者は構造的に孤立しやすい
中小・中堅企業では、DEI全体の担当者が一人だけ、いわゆる一人担当者となるケースが少なくありません。
大手企業であっても、領域ごとに分かれ、LGBTQ+分野は単独で担当することがよくあります。
つまり、組織として取り組んでいるように見えても、実務は孤独な個人戦になりやすいのです。そのような場合は気軽に相談できる相手も少なく、手探りで進めざるを得ない状況に置かれがちです。
②戦略と結びつかないと優先順位が上がらない
DEIの中でも特定の属性向けの施策、特にLGBTQ+施策は、経営戦略や人材戦略と結びついていない場合、優先順位が下がりやすくなります。
結果として、単発施策にとどまり、継続的な取り組みに発展しにくくなってしまいがちです。
言い換えれば「今すぐにはやらなくてもいいこと」「やらなくても困らないこと(困る人が可視化されにくい)」に位置づけられてしまうのです。
③時間は限られているのに、社会からの要求は高まっている
多くの担当者は、DEIやLGBTQ+施策専任ではなく他業務との兼務です。
そのため、限られた時間の中で優先順位をつけながら進める必要があります。
一方で、社会からの要請は年々高まっています。人権デューデリジェンス、ESG、サステナビリティ。KPIを求められることも増え、「余力があればやるもの」ではなく、企業の責任として求められる領域へと変化しています。その中で「とりあえず形だけ拵えておこう」で形骸的な取り組みに終わってしまうケースも、残念ながら多いのです。
まとめ:LGBTQ施策・DEI推進は“続けられる設計”が重要
LGBTQ+施策やDEI推進は、一度の研修や制度導入で完結するものではありません。
重要なのは、無理なく続けられる形で取り組みを設計することです。
もし今、上で述べたような「一人で手探りの状態にある」「施策が点で終わっていると感じる 」「何から優先すべきか迷っている」といった感覚があるとしたら、同じような悩みを持つ担当者は決して少なくありません。
LGBTQ+に関する領域は、一人で考え込んでいてもなかなか効果的な打ち手が思い浮かばないことも多いでしょう。
だからこそ、他社の実践や視点に触れながら、対話を通じて整理していくことが、次の一歩につながります。
来週4/23(木)に、アカルクでは、法律の立場から企業の人権・ダイバーシティに関わる細谷弁護士とともに、企業のLGBTQ+施策担当者向けのワークショップを開催します。
(URL:https://peatix.com/event/4918433/view)
本記事で触れたような、「施策の形骸化をどう乗り越えるか」「経営・人材戦略とどう接続するか」「限られた時間の中で優先順位をどうつけるか」といったテーマについて、実践的に考える場となっています。もしご関心があれば、ぜひご参加ください。
同じ立場の方との対話が、きっとこれからの取り組みを明るく照らしてくれるはずです。
執筆者:ししまる
IT中堅企業の人事としてDEI施策全般を主導する傍ら、社内外でLGBTQ +の支援活動にも従事。
企業内担当者として、さらにイチ当事者としての目線からも、自分らしく働ける組織づくりについて発信します。


