150年の歴史から紡ぐDE&I推進の未来


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取り組みとその背景

堀川:最初に御社が DE&IやLGBTQ+について取り組むことになった背景を教えていただけますか?

沈:2015年から「WiSH」プロジェクトを立ち上げ、最初は女性活躍推進を中心に、その後は障がい者や外国籍の方などのDE&I全般についても色々取り組みを行ってきました。LGBTQ+に関して最初に意識し始めたのは2016年頃でしたが、当時は女性活躍推進が中心だったので、どうしても LGBTQ+に関してできることが少なかったですね。 また、毎年寮祭では、女装大会などのイベントが長年残っており、社内の方のLGBTQ+への意識の低さを実感していました。 2018年に初めての取り組みとして、人事部・総務部などの管理部門向けにLGBTQ+について当事者の方を講師に勉強会とディスカッションを行いました。その後、社内から声があがり、寮祭の内容は見直されました。

堀川:これまでのLGBTQ+に関する取り組みについても教えていただけますか?

沈:いきなり制度を変えるのは難しいため、まずは啓発活動から始めました。映画の上映会や講演会を行い、2022年にはダイバーシティウィークの一環として、アカルクさんにご協力いただき社内の意識調査を行いました。また、2023年の京都のプライドイベントへの協賛も実施しました。

堀川:取り組みを実施する際にどんな点を意識されていたのでしょうか?

沈:全ての社員が自分らしくいられるようになることを目指しました。また、弊社の社員はとても真面目で、納得しないと賛同できないという傾向があります。そのため、いかに社員が腹落ちし、自分ごととして一緒に参加してもらえるかを考えました。

 

社内風土

堀川:社員さんの傾向について皆さんはどう捉えられていますか?

沈:真面目な社員が多い印象ですね。

斎藤:会社に対する愛着が非常に強いという点は、当社の特徴だと思います。自分たちの仕事が「科学技術で社会に貢献する」社是につながっていることに誇りを持って業務に取り組んでいる方が多いです。そのため、自分たちの会社をもっと良くしたい、そこから社会が良くなればいいなという思いを持っている方が多いですね。

堀川:御社で2022年に実施された意識調査では、約4000名の社員を対象に、回答率が70%を超えていましたね。他社と比較しても非常に高いと感じました。御社の社員の方々はDE&Iの取り組みに対しても積極的に取り組もうという意識が高いのでしょうか?

斎藤:そうですね。調査でも、LGBTQ+の取り組みやDE&I推進について前向きな回答が多かったです。これは堀川さんも他社と違う特徴的な点 だとおっしゃっていただきました。しかし、具体的に一人ひとりがDE&Iを学び、それを自分ごととして取り組んでいく段階になると少しギャップが出てしまうのが現状です。

堀川:それはなぜでしょうか?

斎藤:調査結果を見ると、多くの社員が公平で公正な会社だと感じており、現状の人間関係や会社の在り方に満足しているという点が根底にあると思います。そのため、DE&I推進をすることで、更にどんなシナジーが起きるのか、経営にどんなインパクトがあるのかをもっと伝えて理解していただかなければなりません。

堀川:この数年間の取り組みを通じて、社内の意識や変化を感じることはありますか?

沈:変化は急激ではありませんが、感じます。 例えば、社外相談窓口を導入した際に、アクセス数が他より多かったり、他部署の方から応援の声をかけられることがありました。こうした声を聞くと、とてもやりがいを感じます。また、イベントの後には、社員から意識が変わったという意見が多く見られました。こうした小さなことから変化を感じています。

堀川:お二人のお話を聞いていると、啓発活動において押し付けではなく、社員のペースに合わせて内発的に気づいてもらうことを大事にされていると感じました。

 

DE&I推進における課題と効果

堀川:担当者として、会社の方針や現場の状況とのギャップにどのように対応されていますか?

沈:諦めない心ですね。DE&I自体はトップダウンではなくボトムアップで取り組みを行っているので、リード感に欠けていると感じています。そのため、何かやろうとするときにまず多くの人の理解を得ないとなかなか前に進めないという現状があります。 現在パートナーシップ制度の導入を進めていますが、諦めずにやり続けることだと思っています。

斎藤:DE&Iの推進はなかなか変化が見えにくいことから、スピードアップを求められることもあります。しかし、スピード感を重視することが必 ずしも良いやり方になるとは限らないので、私も含めたメンバーはそのバランスに少し悩んでしまうところはあります。

堀川:取り組みを進めていく中で課題はありましたか?

沈:当初は子どもを含めたファミリーシップ制度の導入を目指していました。しかし、実際に人事部内で話をすると具体的な課題が出たり、早すぎるのではないかという意見もあり、部内での理解を得るのが大変でした。また、2022年にDE&I推進が組織化され、国内外の島津グループ全体で取り組む方針に変わりましたが、海外のグループ会社では、各国の制度や価値観、文化、宗教などが異なるため、特にLGBTQ+のテーマでは難しい国もあります。一斉に同じラインを求めるのは難しいので、それぞれの立ち位置に合わせて積極的に自分たちの問題として取り組んでもらうことが必要だと思います。一社一社個別に話を聞いてみると、それぞれの課題を把握することが重要だと感じました。

堀川:LGBTQ+の取り組みを行うことによる変化や効果、結果などは現段階でありますか?

斎藤:約2年前、社内の堀川さんの講演会に参加された方や動画を見てくださった方にアライの表明についてのアンケートを行ったところ、多くの方が賛同してくれました。 講演会に合わせて作った「島津 LGBTQ+アライのステッカー」や弊社のネットワークに表示される顔写真のアイコンにアライのマークをつけてくださった方も多いです。このアライマークは、オンライン会議のときなどにも表示されるので、その際にアライマークを説明したり、講演会を行ったことを宣伝したりすることにもつながっています。DE&Iに全く関係のない場面で人事部以外の社員がアライのステッカーを付けている人を見かけると、アライコミュニティが広がっていっていることを実感し、取り組みの効果を感じます。

堀川:極端に大きなことをするというよりも、日常的なコミュニケーションや会話の中で心理的安全を感じられるような環境づくりを大事にされているのですね。小さなことに思われがちですが、それがもたらす効果は大きく本質的だとお話を聞いていて改めて思います。


▲社内の声から生まれた、 島津製作所オリジナルのアライマーク

 

アカルクを選んだ理由

堀川:取り組みについてたくさん伺いましたが、そもそもなぜアカルクに依頼してくださったのですか?

斎藤:DE&I推進グループに入るまで、LGBTQ+に関することはほとんど理解していませんでした。そこで、基本知識と人事としての対応を学ぼ うとLGBTQ+の研修に参加しました。その講師だったのが堀川さんでした。学習と並行して、弊社で LGBTQ+の課題に向き合っていくにあたり、一緒にパートナーとして支え導いていただけるような企業さんを探していました。研修のあとにお話をさせていただいた中で、堀川さんの誠実さや事業の透明性に信頼できると感じ、アカルクさんと一緒にやりたいと思い ました。

沈:ご講演のアンケートもお人柄に感動したという声が一番多かったですね。人事向けにもオンラインで研修をしていただきましたが、人事ではいろいろなコンサルの方とお付き合いがあり、時には圧迫感を覚えることもありますが、堀川さんの場合すごく誠実に寄り添ってお話をしてくださり、人事部でもすぐ堀川さんへの信頼が深まったと思います。

 

取り組みの先に目指すもの

堀川:最後に、御社ではDE&Iの領域に幅広く取り組まれていると思いますが、この先どのように多様性を尊重した組織づくりを目指されているのかを教えてください。

沈:LGBTQ+の方に限らず、全ての方が自分らしく力を発揮できる職場にしたいと考えています。150年の歴史がある中で、変わらないためには変わり続ける必要があると思っています。そのような思いを持って、DE&Iに取り組んでいます。

斎藤:DE&Iについて知ることは、自分自身を知ることにつながっていると感じます。LGBTQ+や障がい、世代など様々な切り口がありますが、 それを勉強することで、自分を振り返る機会が多いです。DE&Iを推進することには賛成するけど、他人事だと思っている人もまだ多いので、DE&Iを知ることは、他人を知ることだけでなく自分を知ることにつながるということを社員の方にももっと知っていただきたいと思っています。

上司コメント:「自分ごとダイバーシティ」ということを掲げています。マイノリティの生きづらさを解決したり、公平な組織・社会を目指すことはもちろんですが、そのためだけの活動というよりも個々の価値観や経験を強みに変える活動が本来の姿です。島津グループでは心理的安全があり自分らしく過ごせる環境づくりを目指しています。過剰な配慮によってコミュニケーションをとることを恐れるのではなく、完全に理解し合っているわけではないということを前提に、コミュニケーションを活発化し、それぞれが過ごしやすいような環境づくりができるようになれたらいいなと思います。また、会社としては多様性を尊重することは経営戦略であるということを示していかなければいけません。心理的安全性が担保され、社員一人ひとりが活躍できる土台をつくることで、それを元にイノベーションを起こしやすくなりますし、社員のやりがいにもエンゲージメントにもつながります。それによって、島津グループが成長し、次の150年も社会に貢献できる会社として成長していけると考えています。

 

対談者紹介

斎藤 桃代
株式会社島津製作所
人事部人財開発室 DE&I推進グループ

沈 梦溪
株式会社島津製作所
人事部人財開発室 DE&I推進グループ

堀川 歩
株式会社アカルク 代表取締役社長