• 「LGBTQ+は生まれつき?」
  • 「遺伝や親の育て方は関係している?」
  • 「なぜ同性を好きになるの?」

LGBTQ+という言葉が広く知られるようになった今も、このような疑問を持つ人は少なくありません。

実際、性的指向や性自認については、これまで遺伝や生物学的要因、家庭環境など、さまざまな観点から研究が行われてきました。

結論から言うと、現在の研究では「これが原因でLGBTQ+になる」といえる単一の要因は明らかになっていません。また、LGBTQ+は、何かをきっかけに「なる・ならない」というものではなく、性的指向や性自認は本人が意図的に選択して決めるものでもありません。

では、性的指向や性自認について、現在の研究ではどこまでわかっているのでしょうか。

本記事では、「生まれつき」「遺伝」「家庭環境」「過去の経験」など、LGBTQ+になる原因として語られることの多い説を、研究データを交えながら解説します。

【結論】性的指向・性自認が形成される明確な原因はわかっていない

✓結論:性的指向・性自認の形成に、単一の明確な原因は確認されていない

「LGBTQ+になる原因」があるのかを考えるうえで、まず知っておきたいのが、『LGBTQ+には異なる性のあり方が含まれていること』です。

例えば、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルは主に「性的指向」、トランスジェンダーは「性自認」に関する言葉です。

  • 性的指向:どのような性の人に恋愛的・性的に惹かれるか
  • 性自認:自分自身の性をどのように認識しているか

<LGBTQ+とは>

  • L:Lesbian(レズビアン):女性として女性が好きな人
  • G:Gay(ゲイ):男性として男性が好きな人
  • B:Bisexual(バイセクシュアル):男性と女性の両性を好きになる人
  • T:Trans-gender(トランスジェンダー):心の性と体の性に違和感を感じている人
  • Q:Queer・Questioning(クイア・クエスチョニング):性的少数者全般、自らの性のあり方について特定の枠に属さない人またはわからない人

このように、LGBTQ+には「誰を好きになるか」と「自分の性をどう認識するか」という異なる概念が含まれています。

そのため、そもそも「LGBTQ+になる原因」を一つの仕組みで説明することはできません。

また、性的指向や性自認がどのように形成されるのかについては、現在に至るまでさまざまな研究が続けられてきました。

しかし現時点では単一の明確な原因は特定されておらず、また本人が意図的に選択して決めるものでもないとされています。

「LGBTQ+になる原因」とされてきた説は本当なのか?

「LGBTQ+になる原因」とされてきた説は本当なのか?

「LGBTQ+になる原因」があるのかを考える際、よく挙げられるのが以下の4つの要因です。

  • 生まれつき
  • 遺伝
  • 家庭環境・親の育て方
  • トラウマ・過去の経験

では、実際にこれらの要因と性的指向・性自認には、どのような関係があるのでしょうか。

ここからは、現在の研究でわかっていることをもとに詳しく見ていきます。

生まれつき説|△ 明確にはわかっていない

✓生まれつきかどうかは 明確にはわかっていない

現在の研究では、性的指向が「完全に生まれつき決まっている」と断定できるまでには至っていません。

米国心理学会(American Psychological Association)では、性的指向については遺伝やホルモン、発達、社会、文化などさまざまな要因について研究を進めていますが、“特定の要因によって決まる”という科学的な結論は出ていないというのが現在の回答です。

また、性的指向は本人が自ら選択して決めるものでもありません。同学会は、多くの人が自身の性的指向について、「『自分で選んだ』という感覚をほとんど、あるいはまったく持っていない」と説明しています。

つまり現時点では、性的指向を「すべて生まれつき」と断定することも、「本人の意思で決められる」と考えることも適切ではありません。

出典:American Psychological Association「Understanding sexual orientation and homosexuality」

遺伝説|△ 遺伝的要因の関与が示されている

✓遺伝だけで性的指向や性自認が決まるわけではない

性的指向には、遺伝がある程度関係している可能性があります。

性的指向と遺伝の関係を示した表

性的指向や性自認については、遺伝的要因との関係も研究されています。

性的指向について、2019年に科学誌『Science』に掲載された約47万7,500人を対象とした研究では、同性との性的行動の違い(人によって同性を好きになるかどうかの違い)について、その違いの一部(約8〜25%)は遺伝的な要因と関係している可能性があることが示されました。

一方で、この研究では「ゲイ遺伝子」と呼べるような、同性との性的行動を決定する単一の遺伝子は見つかっていません。また遺伝情報から、個人の性的行動を予測することもできないとされています。

つまり、遺伝的要因の関与は示されているものの、「特定の遺伝子によって性的指向が決まる」ということではありません。

性自認についても、遺伝や出生前のホルモンなど、生物学的要因との関係が研究されています。遺伝的要因の関与を示唆する研究がある一方、研究によって結果にはばらつきがあり、現時点でどの程度影響するのかは明らかになっていません。

そのため、性的指向・性自認のいずれについても「遺伝によって決まる」と単純に説明することはできないといえます。

出典:Science「Large-scale GWAS reveals insights into the genetic architecture of same-sex sexual behavior」

家庭環境・親の育て方説|× 科学的根拠は確認されていない

✓家庭環境・親の育て方のせいという科学的根拠はなし

「親との関係が悪かったから」「父親・母親の育て方に問題があったから」など、家庭環境が原因でLGBTQ+になると考える人もいます。

しかし、親子関係や親の育て方が、子どもの性的指向を決定するという科学的根拠は確認されていません。

性的指向の形成要因を検討した研究では、親子関係と性的指向との関連は弱く、統計的に有意ではなかったことが報告されています。

また、同性の親に育てられた子どもを対象とした研究では、異性愛者の親に育てられた子どもと比べ、性的指向の発達に大きな違いは確認されていません。

こうした研究からも、「親の育て方が原因でLGBTQ+になる」「同性の親に育てられるとLGBTQ+になる」といった考え方を裏付ける科学的根拠はないといえます。

出典:Christopher C. H. Cook, “The causes of human sexual orientation”, Theology & Sexuality(2021年刊行、2020年オンライン公開)

トラウマ・過去の経験説|× 原因とはいえない

✓トラウマや過去の経験は無関係

米国国立医学図書館(NLM)が運営するPubMed Centralに収録されている、2022年発表の研究(27の研究・約20万人を対象)では、LGBTQ+の若者の55.2%が、虐待やいじめなど何らかの逆境体験を経験していたことが報告されています。

しかし、これは「トラウマが原因でLGBTQ+になった」ことを意味するものではありません。

性的指向やジェンダー規範にとらわれない言動などを理由に、いじめや虐待を受けた可能性もあり、どちらが原因でどちらが結果なのかは判断できないためです。

そのため現時点では、トラウマや特定の過去の経験が原因でLGBTQ+になると断定できる科学的根拠はありません。

出典:National Library of Medicine「A systematic review and meta‐analysis investigating the impact of childhood adversities on the mental health of LGBT+ youth」

LGBTQ+は病気?かつて「異常」とされていた歴史

LGBTQ+が病気として扱われた歴史の表

現在、同性愛は病気や精神疾患とは位置づけられていません。しかし、かつては医学・精神医学の世界でも、同性愛が精神障害として扱われていた時代がありました。

1952年には米国精神医学会(APA)の診断基準「DSM-I」で精神障害の分類に含まれましたが、その後1973年に診断分類から外すことが決定。さらに1990年には、WHOも国際疾病分類(ICD)から同性愛を削除しています。

このように、同性愛を「治療すべき病気」と捉える医学的な位置づけは、時代とともに大きく変化してきました。

LGBTQ+はなぜ最近増えた・多く見えるようになった?

LGBTQ+はなぜ最近増えた・多く見えるようになった?

電通グループの調査「LGBTQ+調査2023」では、LGBTQ+に該当する人の割合は、2015年の7.6%から2023年には9.7%に増加しています。

しかし、これは「LGBTQ+になる人そのものが増えた」という意味ではありません。

電通グループはその要因の一つとして、LGBTQ+に関する情報が増え、自分自身の性的指向や性自認への「気づき」が進んだ可能性を挙げています。

実際、「LGBT」という言葉の認知度は、2015年の37.6%から2018年には68.5%へ上昇しています。

つまり、LGBTQ+が増えたというより、社会の認知が広がり、自分の性のあり方を認識・表現できる人が増えた可能性があると考えられます。

出典:電通「電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」を実施」「電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2018」を実施」、「電通グループ、「LGBTQ+調査2023」を実施」

「LGBTQ+になる原因」よりも、一人ひとりのあり方を尊重することが大切

ここまで紹介してきたように、性的指向や性自認がどのように形成されるのかについては、現在も研究が続けられており、「これが原因」といえる単一の要因は明らかになっていません。

「親の育て方が原因」「過去のトラウマが原因」「本人が自ら選んだ」などと決めつけることは、当事者を傷つけたり、偏見や差別につながったりする可能性があります。

また、「なぜLGBTQ+になったの?」と原因を求めること自体が、相手にとって負担になる場合もあります。

大切なのは、「なぜそうなったのか」と原因を探すことではなく、性的指向や性自認は一人ひとり異なることを理解し、その人自身のあり方を尊重することです。

LGBTQ+やSOGIについて正しい知識を持つことが、偏見や差別を減らし、誰もが自分らしく過ごせる環境をつくる第一歩になります。

企業のLGBTQ+施策は、正しい理解から

本記事でもお伝えした通り、現在、性的指向や性自認について「これが原因」といえる単一の明確な要因は不明です。

遺伝や生物学的要因などさまざまな研究が行われていますが、「親の育て方が原因」「特定の経験によってLGBTQ+になった」などと単純に説明できるものではありません。

また、LGBTQ+は病気ではなく、本人が意図的に選択してなるものでもありません。

LGBTQ+に関する偏見や差別を防ぐためには、一人ひとりが性的指向や性自認について正しく理解することが大切です。

アカルクでは、LGBTQ+やSOGIに関する企業向け研修をはじめ、職場でのLGBTQ+に関するさまざまなご相談にも対応しています。

「社内のLGBTQ+への理解を深めたい」「何から取り組めばよいかわからない」という企業担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

執筆者:佐藤ひより

大手メーカーの海外営業職を経験後、2018年にライターとして独立。フリーランスとして多様な価値観や働き方に触れる中で、「一人ひとりが自分らしく生きられる社会」に関心を持つように。現在は、キャリア・ビジネス・ライフスタイル分野を中心とした記事制作に携わっています。