LGBTQ+に関するニュースは日々メディアを通じて、聞く機会が増えてきたのではないでしょうか。
性の多様性について語られるようになるなか、LGBTQ+当事者は職場でどのようなことを課題としてとらえているのでしょうか。
LGBTQ+の当事者が実際に困りやすいことをハード面とソフト面から確認しながら、LGBTQ+フレンドリーの会社の取り組み事例をみていきましょう。
なお、LGBTQ+の基礎知識は「【2024年版】LGBTQ+とは?知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説」の記事でご覧いただけます。本記事と合わせて読み進めていただくとLGBTQ+について知ることができます。ぜひご覧ください。
ハード面で困ること
LGBTQ+当事者における職場でのハード面とは、職場における環境や制度のことをいいます。
セクシャリティや個人によっても困りごとは異なるということを前提に、
トランスジェンダー、同性愛者・両性愛者それぞれでハード面で困ることについて、具体的に解説していきます。
トランスジェンダーの場合
まず、トランスジェンダーにとってハード面における職場での課題について解説します。トランスジェンダーが職場において、不安や課題に感じる例を挙げました。
- 制服・更衣室
- 社員証・名刺
- 出張時の部屋・社宅
- トイレ
- 健康診断
- 治療や手術時の休暇
上記例のとおり、主に男女で区別されている事柄においては、特に周囲への留意が必要な傾向にあります。それぞれの内容をさらにかみ砕いて、どのような点に不安を感じるのか確認しましょう。
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制服・更衣室
まず、制服、更衣室についてです。
トランスジェンダーにとって、自分の性自認に合った制服や更衣室を自由に選択できることは、職場環境における配慮の1つといえます。これが当たり前に実現されることで、心理的な負担が大きく軽減され、安心して働けることに繋がります。
また、性別移行中や特定の配慮が必要な場合には、性別にとらわれないデザインの制服や、更衣室内でのプライバシーを確保できるスペース(たとえばカーテン付きの場所)の設置といった対応が考えられます。 -
社員証・名刺
社員証や名刺には、性自認に合わない名前や性別が使われる場合もしばしばあります。
社員証には性別欄が設けられていることも珍しくないため、通称名の使用を認めたり、性別の表記をなくす企業も増えてきています。 -
出張時の部屋・社宅
出張時は宿泊先での配慮も考えられます。
相部屋など部屋の割り当てが必要な場合は、どのようなルールを設けることがのぞましいのでしょうか。
具体的な流れとして、以下がおすすめです。1.本人の意向を確認する
2.会社としてどこまで対応できるか検討する/ガイドラインを定めておく(※)
3.それをもとに本人と話をしできる範囲から進めていくことを承諾してもらう
4.可能であれば今後の方針を決め、本人へ案内する
※2に関しては、アウティングにつながる可能性もあるため、事前に社内に対してどこまで伝えていいのか本人の承諾を得る社宅がある企業であれば、男性用・女性用社宅の選択についても慎重な配慮が必要です。
本人の安心感が得られる選択を確認しつつ、性別移行の段階や周囲の関係性も踏まえた形で対応方針を決定することが望ましいです。 -
トイレ
トランスジェンダーの従業員に対しては、本人の意向を確認しながら、性別移行の段階や周囲との関係性などに応じて、個別に対応を考えることも重要です。
社内で制度が定められていない場合は、本人と話し合って対応を決めている企業も多くあります。 -
健康診断
健康診断は年に一度、社員が福利厚生として利用できる制度です。
LGBTQ+当事者は、問診表に性別欄が設けられていることで、どちらを記入するべきか迷ったり不安に思うことがあります。
診察においては、身体検査に対する不安や恥ずかしさを抱いたり、診察をおこなう医師にトランスジェンダーの知識が不足していることもあります。
こういった課題に対応できるよう、診断時間をずらしたり、普段利用している医療機関での診断を許可し、結果を提出してもらうことで健康診断へ対応する企業もあります。 -
治療や手術時の休暇
トランスジェンダーのなかには、ホルモン治療をおこなったり、性別適合手術を受ける場合があります。
その際、必ず重要になるのは、休暇の取得や復帰後の配慮事項の確認です。
肉体仕事などであれば、思うように腕があがらなかったりするので職種によっては仕事復帰後の調整も必要となります。
まずは、本人がどうしたいかという意向をヒアリングし、手術前後でどれくらいの日数が必要なのか、などヒアリングをすることが大切です。
同性愛者・両性愛者の場合
同性愛者・両性愛者がハード面で困ることはどんなことでしょうか。
大きな課題としては、法律婚であれば受けられる社会保障を、同性愛者・両性愛者は受けることができないことです。
以下は同性愛者・両性愛者の当事者が実際に困る事柄です。
- 福利厚生
- 配偶者の証明
- 社会保障
いずれも、総務、労務、法務といった管理部門にて、書類があれば申請ができる制度である一方、法律が絡む申請も多くあります。
同性愛者、両性愛者にとって、これらの申請はハードルの高さを感じざるをえないでしょう。
具体的にどのようなことがハードルとなるのか、ひとつずつ確認しましょう。
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福利厚生
まず、福利厚生です。
パートナーが同性であることで、労働者が利用できる福利厚生を受けることができないケースがあります。
たとえば、配偶者手当や家族手当といったものが該当します。 -
配偶者の証明
つぎに、配偶者の証明です。
自社でパートナー制度を設けている企業もありますが、現状、日本では同性婚が法的に認められていません。そのため、法律婚と同様の法的な証明書の発行や提出ができません。したがって、パートナーとの関係性が配偶者として証明できないという状況です。
また、心理的なハードルとしては、書類提出自体が、カミングアウトにつながることもあります。 -
社会保障
最後に、社会保障についてです。
パートナーが配偶者として認められない場合、社会保障についてもパートナーが受けることが出来ません。
たとえば、健康保険、雇用保険といった受給資格が挙げられます。
法整備を1社だけで変えていくことは難しいかもしれません。
しかしながら、企業独自の制度を設けることは可能です。その際、企業が独自の制度を設けるために、制度利用の条件やルールを設けることが重要です。どのような条件が揃ったら配偶者証明として承認をするのか、社内で検討する必要があります。
また、大前提として、社内でこれら議論がオープンにできるのかも重要です。
制度を定めるうえで、企業内での周知やその制度を利用するLGBTQ+当事者が、匿名で相談ができる窓口を設けることも、方法のひとつです。
本人のカミングアウトの可否に関係なく、多様な人が安心して働く環境を作るうえで最も重要なことといえます。
ソフト面で困ること
ソフト面とは、理解や情報のことを指します。LGBTQ+におけるソフト面で困ることは大きく以下2つに分けられるでしょう。
- SOGIハラスメント
- アウティング
具体的にどのようなことがSOGIハラスメントやアウティングにあたるのか、それぞれ確認しましょう。
SOGIハラスメント
SOGIハラスメントとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)にもとづく差別やハラスメントのことを指します。具体的には次のような事柄です。
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差別や偏見
LGBTQ+の当事者が差別や偏見を感じる言葉や態度は、以下のようなものが挙げられます。
●性的指向を「気持ち悪い」と否定的に表現する
●同性愛を理由に無視する
●不当な配置転換を行う
●LGBTQ+を「病気」や「異常」と誤って認識するこのような言葉や態度は、多くの場合がLGBTQ+についての知識不足や誤った先入観から生まれています。
多様な性のあり方を知ることが、誰しもが自分らしく生きられる社会をつくることにつながります。そのために、一人ひとりがLGBTQ+について正しい知識を身につけましょう。 -
無自覚に傷つける発言
無自覚にLGBTQ+の当事者を傷つける発言例として「男か女どっち?」、「男らしくしなさい!」「女らしくない」、「いつ結婚するの?子どもは?」といった発言です。
これらに共通することは、LGBTQ+に限らず押し付けられたくない価値観でもあるということです。
アウティング
アウティングとは、本人の同意なく性的指向や性自認を第三者に暴露することを指します。
たとえば、「○○さんってゲイらしいよ」といった吹聴をふくめ、なんらかの手段で知りえた当事者の噂をまわりに勝手に共有したり、「業務上必要だから」という理由で、本人の許可なく社内で情報を共有することです。
企業の取り組み事例
実際に企業がおこなっている、LGBTQ+に関する取り組みはどのようなものがあるのでしょうか。
令和元年度 厚生労働省委託事業 「多様な人材が活躍できる環境環境に関する企業の事例集」をもとに、実際の取り組みをみていきましょう。
本調査によれば、各社の取り組みが、必ずしも、自社に適切な取り組みであるとは限らない、と記載があります。
重要なことは、社員の声を取り入れながら、チューニングしていくことが求められます。
周知や推進体制づくり
まず、社内向けに周知や推進体制づくりを行った企業事例を紹介します。
ある企業では、「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を明確に宣言しました。
また、就業規則に性別役割の明記はせず、性的指向・性自認の内容を含め、社員がこれらをいつでも閲覧可能な状態にしました。
自社のホームページにも公開することで、社内外を問わずオープンな情報を発信しています。
研修などによる理解の推進
次に、研修などによる理解の推進を行う企業事例を紹介します。
ある企業では、社員一人ひとりの性的マイノリティへの理解を深めるために、「人事担当者」「採用担当者」「管理職」「社員全員」に対し、それぞれの業務や職務に合わせた研修プログラムを実施しました。
研修プログラムの内容は、基礎知識から、ハラスメントやアウティング、カミングアウトなど実践的なテーマを取り上げ、職場全体での理解促進を図りました。
相談体制の整備
続いて、性的マイノリティの当事者の相談体制を整備した企業事例を紹介します。
ある企業では、社内に相談窓口を設け、相談内容を口外しないことを徹底し、LGBTQ+当事者が安心して相談できる体制を確保しています。
また、社外相談窓口も検討しています。社外に相談窓口がある場合は、相談内容が漏れず、社内へのアウティングを防ぐ点ではより安心感があります。
相談窓口の整備についても重要ですが、相談窓口の存在を繰り返し社員へ周知していくことも重要なポイントになります。
【導入事例】アライコミュニティの先に目指す未来
ここで、各社とのインタビューした内容から、LGBTQ+に関する取り組みを社内で行った背景、具体的な施策、取り組みの結果について、一部をピックアップしてご紹介します。
取り組みの背景
弊社が伴走支援させていただいた企業様は、グローバルでの多様性理解推進活動の一環として、LGBTQ+への取り組みを展開しています。開始当初のD&I推進コミュニティ設立を経て、従業員主導型のグループ組織へと発展しました。
「社員一人一人がLGBTQ+を個性として認め合い、ありのままの自分で活躍できる会社」を目指し、経営陣の全面的支援のもと活動が続いています。
具体的な取り組み施策
具体的な取り組み施策としては、社員のアライ増加を目指しています。これまでに、同性婚・事実婚の法律婚同等化などの人事制度改定と、外部相談窓口の設置によるLGBTQ+社員サポート体制を確立しました。
また、啓発活動として、ウェブセミナーの開催、外部講師による社内研修を実施。さらには、アライ表明者にオンライン会議時に使えるレインボー背景やストラップ、アライシールを配布し、視覚的な認知向上を図りました。
取り組みの成果
これら施策実施後の成果として、社内アンケートでは、多様性を認める企業文化の醸成が着実に進んでいることが確認できました。特に、社員の意識が「無関心」から「積極的な参加意欲」へと変化していることが結果につながりました。
さらに詳細をご覧になりたい方は、以下記事からご覧いただけます。
まとめ
今回は、LGBTQ+当事者が職場で実際に困っていることをハード面とソフト面とで、ひとつずつ確認しながら、LGBTQ+フレンドリー企業の取り組みをご紹介しました。
多様性を受け入れるための職場の環境整備は、まだ課題も多いです。
パートナーが同性であることから、社会制度や会社の福利厚生を受けられない場合があります。
企業内での多様な働き方、多様な人が働ける環境を整備するには、自社の社員のことを知ることが重要になります。
同じ職場で働く仲間の悩みごとを自分事として捉え、全員が楽しく働くために何ができるかを考えてみましょう。
株式会社はアカルクは、ダイバーシティ推進のための取り組みをはじめ、LGBTQ+の方がどのような事に配慮が必要なのか、多様性を意識した採用コーチングから、入社後のガイドラインの策定、制度構築、運用を一気通貫で行う人事コンサルティング、キャリア支援といったプロデュース事業を展開しています。
LGBTQ+に対応する制度の策定をしていきたいといった、課題がある人事担当者や採用担当者の皆さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。