毎年10月11日は「国際カミングアウトデー」です。

「カミングアウト」というと、「LGBTQ+であることを家族や友人に伝えること」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 もちろん、「伝えること」は、カミングアウトの大切な一面です。
一方で、企業のDEIやLGBTQ+施策に携わる中で感じるのは、職場では「伝えた後にどうするか」も同じくらい大切だということです。

誰に、どこまで共有してよいのか。どのような配慮を希望しているのか。会社としてどこまで対応できるのか。

今回は国際カミングアウトデーをきっかけに、カミングアウトについて、特に職場という場面から考えてみたいと思います。

10月11日は「カミングアウトデー」

10月11日は、英語では National Coming Out Day(ナショナル・カミングアウト・デー) と呼ばれています。

その始まりは、1987年10月11日にアメリカ・ワシントンD.C.で行われた「National March on Washington for Lesbian and Gay Rights(レズビアン・ゲイの権利のためのワシントン大行進)」です。
この大行進の1周年にあたる1988年10月11日に、最初のNational Coming Out Dayが実施されました。以来、10月11日は毎年、カミングアウトについて考える日として知られるようになりました。

 この日が生まれた背景には、LGBTQ+の人々が自分の存在や経験を社会の中で可視化していくことの意味があります。
LGBTQ+の人が身近にいることを知ることで、それまで持っていたイメージや思い込みが変わることもある。一人ひとりが自分の人生について語ることが、社会の見方を変えていく力にもなる。
National Coming Out Dayは、そうした「可視化」の意味とも結びついてきたようです。

 ただし、カミングアウトデーは「この日にカミングアウトしましょう」という日ではありません。

カミングアウトするか、しないか。
誰に、いつ、どこで、どこまで伝えるか。
それを決めるのは本人です。

カミングアウトデーは、カミングアウトを促すための日ではなく、カミングアウトについて考え、LGBTQ+について知り、誰もが安心して自分らしくいられる環境について考える機会と捉えることができるのではないでしょうか。

職場でのカミングアウトとアウティング~善意の「情報共有」のリスク~

ここからは、職場でのカミングアウトについて考えてみます。

ある日、上司が社員から相談を受けました。

社員:「実は、私は同性のパートナーと暮らしています」
上司:「話してくれてありがとう。必要なことがあれば言ってくださいね」

上司は、まず本人の話を受け止めました。そして、その日はあまり詮索するのもよくないと思い、それ以上の話はせずに会話を終えました。
一見、とてもよい対応に思えるかもしれません。

ところが翌日、上司がDEI担当者にこんな相談をしたとします。

上司:「昨日、○○さんからカミングアウトを受けたんです。何か会社としてサポートできないかと思っているのですが、どうすればいいでしょうか?」

「本人のためを思って」
「必要な配慮をするために」
「担当者間で共有しておいたほうがいいと思って」

そんな善意からの行動かもしれません。

 しかし、ここには大きな注意点があります。
カミングアウトされたことと、その情報を他の人に共有してよいことは、別だということです。

 本人から相談を受けたときには、
「このことは、誰まで知っていますか?」
「この話は、誰まで共有してよいですか?」
「この情報を会社の制度利用や配慮のために使ってもよいですか?」
「直属の上司には伝えてもよいですか?」
「人事には共有してよいですか?」
「担当者間で共有してもよいですか?」
「ご自身でお話しされますか?」
など、本人がどこまでの範囲でどのように情報を共有することを望んでいるのかを、具体的に確認することが大切です。

「担当者だから知っている」ということと、「担当者だから他の人にも共有してよい」ということは違います。
本人のために良かれと思って共有するという「善意」が、本人の意図しない情報共有、いわゆるアウティングにつながることもあります。

私自身の社内でのカミングアウト

私は、長年勤めてきた会社の中で、以前からごく親しい人には自分のセクシュアリティについて話していました。一方で、社内の多くの人には伝えていませんでした。
そんな中、数年前にDEI推進の仕事に携わることになり、社内研修の講師を担当する機会が増えていきました。

研修の中では、LGBTQ+について一般的な知識を伝えるだけでなく、自分自身の経験についても話したほうが、参加者にとって伝わるものがあるのではないか。
そう考えるようになりました。

ただ、そこで一つの大きな迷いが生まれました。
「自分自身のセクシュアリティについて、社内でカミングアウトするかどうか」です。

研修で話す以上、これまで自分がカミングアウトしていなかった人にも、自分のセクシュアリティが伝わる可能性があります。

もちろん、それによってLGBTQ+を身近に感じてもらえるかもしれない。
自分の経験を伝えることで、誰かの相談のきっかけになるかもしれない。

一方で、知られたくなかった人に知られる可能性もある。
その後どんな反応があるかは、すべて予測できるわけではありません。

そこで私は、上司に相談しました。
このときの上司とのやり取りは今でも印象に残っています。

上司はまず最初に「カミングアウトしたほうがいい」「しないほうがいい」というアドバイスはできないと言い置いたうえで、丁寧に私の希望を探索してくれました。

まず、私が何でカミングアウトしたいと思っているのか。
それは、会社やほかの社員のためだけでなく、私自身のためになることなのか。
そこを丁寧に掘り下げてくれました。

そのうえで、
「こういうことが起こる可能性はある」
「こうした場合には、上司としてこういう対応ができる」
「人事としてこういう予防策を取ることもできる」
「こういうサポートはできる」
「ただし、会社として対応できることには限界があり、こういうリスクは残る」
というように、一つひとつ切り分けて整理してくれました。

「会社が守るから大丈夫」と言い切るわけでもなく、
「何が起こるかわからないから、やめておいたほうがいい」と止めるわけでもない。
できることと、できないこと。起こり得ることと、そのために取れる対策。
そして、それでも残るリスク。
それらを一緒に整理してくれたことで、私は自分自身の意思を改めて確認することができました。

結果として、私は社内でカミングアウトすることを選びました。
もちろん、カミングアウトしたことによってすべてが何もかもよくなったわけではありません。
また、同じ状況にいる人が私と同じ選択をする必要もありません。

私にとって大切だったのは、「自分で判断するための材料を一緒に整理してもらえた」ことでした。

「本人に決めてもらう」とは、丸投げすることではない

この経験を通じて、私は「カミングアウトについては、最大限に本人の意思を尊重する」ことが大事だと強く思うようになりました。とはいえ、「カミングアウトするかどうかは本人が決めること」だけで終わってしまうと、本人にすべてを委ねてしまうことにもなりかねません。

  •  本人が判断するために必要な情報を提供する。
  • 起こり得るリスクを一緒に整理する。
  • 会社としてできる対策を伝える。
  • そのうえで、最終的な選択は本人に委ねる。

 このような関わり方も、「本人の意思を尊重する」ということなのではないでしょうか。

特に職場では、カミングアウトした後も、その人はそこで働き続けます。
人間関係、評価、異動、キャリア、福利厚生、日々の雑談など、さまざまな場面への影響を考える必要があります。
だからこそ、「話してくれてありがとう」だけではなく、「話した後に何が起こり得るのか」まで一緒に考えることが大切なのだと思います。

「会社ではカミングアウトしている。でも、家族には……」

さらに難しいのが、カミングアウトの範囲が「職場」と「プライベート」で一致しているとは限らないことです。

例えば
「会社では同性パートナーがいることをオープンにしている。でも、親には話していない」
という人もいます。

あるいは、
「直属の上司には伝えているけれど、同僚には知られたくない」
「人事には相談したけれど、現場の管理職にはまだ伝えたくない」
「名前や性別については配慮してほしいけれど、性的指向については職場では話題にしたくない」
など、さまざまなケースもあります。

つまり、カミングアウトは「した/していない」の二択ではありません。
誰に、何を、どこまで伝えているのか。一人ひとり違います。同じ人であっても、相手や場面、その時々によって異なることがあります。

この「開示範囲」の問題は、普段の業務だけではありません。

例えば、会社に登録している緊急連絡先。
「本人に何かあった場合は、登録されている家族に連絡する」

会社ではパートナーとの関係をオープンにしていても、親には話していない場合もあります。

そのような場合に、会社が不用意に、
「○○さんのパートナーの△△さんが付き添っています」
などと家族に伝えてしまえば、本人が意図していなかった形で情報が伝わる可能性があります。

個別の配慮を考える際には、「この人はカミングアウトしているか」だけではなく、誰に、何を、どこまで伝えてよいのか」まで確認することが重要です。

カミングアウトとアウティングと職場のハラスメント

カミングアウトとアウティングは、は単に「LGBTQ+への理解」や「人間関係のマナー」という観点だけで捉えるものではありません。
職場では、「ハラスメント防止」や労務管理の観点からも考える必要があります。
厚生労働省の職場におけるハラスメント防止に関する資料でも、本人の了解を得ずに性的指向や性自認に関する情報を暴露する、いわゆる「アウティング」は、パワーハラスメントに該当し得るものとして示されています。
さらに、2026年10月1日からは、いわゆるカミングアウトの「強要」や「禁止」についても、パワーハラスメントに該当し得ることが、パワーハラスメント防止指針に明記されます。

例えば、
「LGBTQ+当事者だと分かったほうが研修に説得力があるから、カミングアウトして話してほしい」
「会社としてはきみが辛い思いをしてほしくないから、職場ではカミングアウトしないでほしい」
といった対応です。

一見すると、前者は「活躍の機会を提供している」、後者は「本人を守っている」と考えられるかもしれません。
しかし、どちらも周囲が「カミングアウトする・しない」を決めてしまうことにつながります。大切なのは、カミングアウトを促すことでも、止めることでもなく、本人が自分で選択できる状態をつくることです。

 カミングアウトを「ゴール」にしない

企業のLGBTQ+施策では、「カミングアウトしやすい職場」という表現を耳にすることがあります。
もちろん、必要な人が安心して相談できる環境をつくることは重要です。

ただ、ここで少し立ち止まって考えたいことがあります。
カミングアウトしやすいことと、カミングアウトしなくても安心して働けることは、別の話ではないでしょうか。

例えば、同性パートナーがいることを会社に伝えなくても、福利厚生制度について必要な情報を必要な時に得ることができる。
性別に関することを詳しく説明しなくても、必要な相談ができる。
そうした環境も、とても重要です。

カミングアウトを前提に制度や施策を設計すると、「自分が名乗らなければ支援を受けられない」という状態になってしまうことがあります。
だからこそ企業には、カミングアウトを促すことではなく、カミングアウトする・しないにかかわらず、必要な人が必要な支援にアクセスできる環境を整えることが求められるのではないでしょうか。

職場でカミングアウトを受けたら、どう対応する?

では、もし職場で誰かからカミングアウトされたら、どうすればよいのでしょうか。

まず大切なのは、その場で過剰な反応をしないこと。
「話してくれてありがとう」と、話してくれたことを受け止めます。

そのうえで
「このことは、誰かに共有しても大丈夫ですか?」
「会社として何かサポートできることはありますか?」
と、本人の希望を確認します。

一方で
「じゃあ○○さんにも伝えておくね」
「人事にも相談しておくね」
「DEI担当に共有しておくね」
と、本人の確認なしに動き始めることは避けたいところです。

また、善意から
「実は私の知り合いにもLGBTQ+の人がいて……」
「最近はLGBTQ+も普通だから大丈夫だよ」
など、自分の経験や一般論で話を終わらせてしまうことにも注意が必要です。
カミングアウトするまでに、長い時間をかけて悩んでいる人もいます。

まずは話を受け止め、本人が何を求めているのかを確認する。
そして必要があれば、その後の対応を一緒に考えていく。
それが、カミングアウトを受けた側にできる最初の一歩です。

カミングアウトデーを、「伝えること」だけではなく「そのあと」を考える日に

10月11日のカミングアウトデー。

この日をきっかけに、LGBTQ+について発信したり、社内研修を行ったりする企業もあるでしょう。
そのときに、ぜひ考えてみてほしいことがあります。

それは
「カミングアウトしてもらうにはどうしたらいいか」だけではなく、「もしカミングアウトされたら、私たちはどうするのか」
ということ。についても考えてみてはいかがでしょうか。

カミングアウトは、一度「伝えたら終わり」というものではありません。
誰に何を伝えるか、どこまで伝えるかは一人ひとり異なり、その範囲が変わっていくこともあります。

カミングアウトすることを選んでも、選ばなくても、その人が安心して働ける。
そして、自分に関する情報を「誰に、どこまで伝えるか」を自分で決められる。

国際カミングアウトデーを、そんな職場について考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

カミングアウトに関する職場での対応に迷ったら

「本人から相談を受けたけれど、どこまで情報共有していいのかわからない」
「制度上の配慮はできそうだけれど、本人とどのように対話すればいいかわからない」
「管理職から相談を受けたが、どこまで対応すべきかわからない」
「社内の相談窓口を整えたいけれど、情報管理の方法も含めて考えたい」

LGBTQ+に関する職場の課題は、制度を一つ導入すれば解決するものばかりではありません。
特にカミングアウトに関わる相談では、本人の状況や希望を丁寧に確認しながら、一つひとつ丁寧に調整し、対応を考える必要があります。

私たちは、企業のLGBTQ+・DEIに関するさまざまなご相談をお受けしています。
「こんなことを相談してもいいのかな?」という段階でも構いません。
一人で悩まず、ぜひお気軽にご相談ください。

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執筆者:ししまる

IT中堅企業の人事としてDEI施策全般を主導する傍ら、社内外でLGBTQ +の支援活動にも従事。
企業内担当者として、
さらにイチ当事者としての目線からも、自分らしく働ける組織づくりについて発信します