ハラスメント相談窓口は、従業員が安心して働ける職場づくりを支える重要な仕組みです。しかし、窓口を設置しているだけでは十分とはいえません。
相談しやすい環境や適切な対応体制が整っていなければ、ハラスメントの深刻化や職場への不信感につながる恐れがあります。
また近年は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに加えて、SOGIハラスメントやアウティングなど、多様なハラスメントへの対応も企業に求められています。
特にSOGIに関する相談は、本人のプライバシーや尊厳に深く関わるため、相談窓口には正しい知識と適切な配慮が欠かせません。
そこで本記事では、ハラスメント相談窓口の役割や設置義務、適切な運用のポイントに加え、SOGIハラスメントやアウティングへの適切な対応の考え方についても解説します。
ハラスメント相談窓口とは
ハラスメント相談窓口とは、従業員が職場でのハラスメントについて相談できる窓口のこと。
相談者の悩みや状況を丁寧にヒアリングし、事実確認や調査、問題解決に向けた対応を行う役割を担います。
相談窓口の役割
ハラスメント相談窓口には、従業員からの相談を受け付けるだけでなく、問題の早期解決や再発防止につなげる役割があります。
主な役割は、以下のとおりです。
- 相談内容のヒアリング
- 相談者への助言や支援
- 必要に応じた事実確認・調査
- 関係部署と連携した問題解決
- 再発防止策の検討・実施
企業に相談窓口が必要な理由
ハラスメント相談窓口が必要な大きな理由は、ハラスメントの深刻化を防ぎ、誰もが安心して働ける職場をつくるためです。
相談窓口が十分に機能していない場合、従業員が相談をためらい、問題が表面化しないまま深刻化する恐れがあります。
その結果、休職・離職、生産性の低下、企業イメージの低下、訴訟リスクなど、企業にさまざまな影響を及ぼします。
また、性的指向や性自認(SOGI)に関するハラスメントやアウティングのように、相談そのものに大きな心理的負担を感じるケースも少なくありません。
企業には、あらゆる従業員が安心して相談できる環境を整え、公平かつ適切に対応できる体制づくりが求められています。
ハラスメント相談窓口で対応すべきハラスメントの種類
ハラスメント相談窓口には、さまざまなハラスメントに対応できる体制が求められます。
代表的なハラスメントだけでなく、多様な背景を持つ従業員が安心して相談できる環境を整えることが重要です。
ここでは、企業が相談窓口で対応すべき以下の主な4つのハラスメントを紹介します。
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティ・パタニティハラスメント
- SOGIハラスメント・アウティング
パワーハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場での優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、従業員の就業環境を害する行為のことです。
■パワーハラスメントの例
暴言、人格否定、過度な叱責、無視、不当な業務命令 など
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、性的な言動によって相手に不利益や精神的苦痛を与え、就業環境を害する行為のことです。
■セクシュアルハラスメントの例
性的な冗談や容姿に関する発言、不必要な身体接触、交際の強要 など
マタニティ・パタニティハラスメント
マタニティハラスメントは、妊娠・出産を理由とした嫌がらせや不利益な取り扱いを指します。また、育児休業や介護休業の取得を理由とした嫌がらせは、パタニティハラスメントやケアハラスメントなどと呼ばれることもあります。
■マタニティ・パタニティハラスメントの例
妊娠・出産を理由に退職を勧める、育児休業の取得を認めない、育休取得を理由に嫌味や不利益な扱いをする、妊娠・育児を理由に配置転換や降格を行う など
SOGIハラスメント・アウティング
SOGIハラスメントとは、性的指向(好きになる性)や性自認(自分が認識する性)に関する差別的な言動や嫌がらせのこと。
例えば、「男なのに」「女らしくない」といった固定観念に基づく発言や、LGBTQ+であることを理由にからかったり、不利益な扱いをしたりする行為は、SOGIハラスメントに該当する可能性があります。
また、アウティングとは、本人の同意なく性的指向や性自認を第三者に暴露する行為のことです。本人に悪意がなくても、意図せずアウティングにつながるケースもあるため、十分な理解が必要です。
例えば、以下のようなケースはアウティングに該当する可能性があります。
- 上司が「周囲の人も知っておいた方がいいだろう」と判断し、本人の同意なく同僚へ共有してしまう
- 人事担当者が「配慮のために必要」と考え、本人の了承を得ずに関係部署へ伝えてしまう
- 雑談の中で「実は〇〇さんはLGBTQ+なんだよ」と、本人の許可なく他の従業員へ話してしまう
LGBTQ+当事者の中には、「相談しても理解してもらえないのではないか」「相談内容が周囲に知られてしまうのではないか」と不安を感じ、相談をためらう人も少なくありません。
そのため、相談担当者にはSOGIやLGBTQ+に関する正しい知識と、プライバシーへの十分な配慮が求められます。
■SOGIハラスメント・アウティングの例
性的指向や性自認をからかう、「男(女)らしくない」など固定観念を押し付ける、LGBTQ+であることを理由に差別的な扱いをする、本人の同意なく性的指向や性自認を第三者に伝える(アウティング) など
ハラスメント相談窓口を適切に運用するポイント
ハラスメント相談窓口は、設置するだけでは十分ではありません。
従業員が「安心して相談できる」と感じられる環境でなければ、ハラスメントが発生しても相談につながらず、問題が深刻化する恐れがあります。
ここでは、相談窓口を実効性のあるものにするための、以下のポイントを紹介します。
- 相談しやすい環境を整える
- 匿名性・秘密保持を徹底する
- 相談担当者への教育を行う
- LGBTQ+など専門性のある相談体制を整える
相談しやすい環境を整える
相談窓口があっても、「相談しづらい」「相談しても意味がない」と感じられていては、窓口は十分に機能しません。
相談窓口の存在や利用方法を社内へ周知するとともに、相談したことを理由に不利益な取り扱いを受けないことを明確に伝えることが重要です。
また、相談方法を対面だけでなく、電話やメール、Webフォームなど複数用意することで、従業員が状況に応じて相談しやすくなります。
匿名性・秘密保持を徹底する
相談内容が周囲に知られることへの不安から、相談をためらう従業員は少なくありません。
相談者のプライバシーを保護し、相談内容を必要な範囲を超えて共有しないことを徹底しましょう。
また、匿名相談の可否や情報の取り扱いについて事前に周知することで、相談への心理的ハードルを下げられます
相談担当者への教育を行う
相談担当者には、ハラスメントに関する法令や社内規程だけでなく、相談対応の基本スキルも求められます。
相談者の話を丁寧に聞く姿勢や、公平な立場で事実確認を行う方法、適切な対応フローなどを理解することが必要です。これらを理解していなければ、相談者との信頼関係を損ねたり、二次被害を招いたりする可能性があります。
そのため定期的な研修を実施し、知識や対応力を継続的に向上させることが大切です。
LGBTQ+など専門性のある相談体制を整える
近年は、SOGIハラスメントやアウティングなど、性的指向や性自認に関する相談に対応する機会も増えています。
しかし、相談担当者に知識が不足していると、悪気のない言動が相談者を傷つけてしまうことがあります。
例えば、本人の同意なく性的指向や性自認を第三者に伝えることはアウティングにあたり、重大な人権侵害につながることがあります。
さらに近年は、性的指向や性自認を理由とした嫌がらせや不当な扱い(SOGIハラスメント)だけでなく、
- 「話してくれないと配慮できない」
- 「本当のことを教えてほしい」
など、本人の意思に反してカミングアウトを求める「カミングアウトの強要」も問題視されています。
相談担当者は、LGBTQ+やSOGIに関する基礎知識に加え、多様な価値観を尊重したコミュニケーションや適切な対応方法を身につけることが重要。専門的な研修を取り入れることで、より実効性のある相談体制を構築しやすくなります。
外部相談窓口を活用するメリット
社内にハラスメント相談窓口を設置していても、「相談しづらい」「担当者の知識や経験が十分ではない」といった理由から、相談が寄せられないケースもあります。
そうした場合に役立つのが、社外の相談窓口です。
実際、株式会社アカルクが実施した「LGBTQ+有職者1万人調査 SOGIハラ/アウティングの実態2024」では、職場環境向上のために今後取り組むべきこととして、次のような結果が示されています。
- 社内相談窓口の設置:16.3%
- 社外相談窓口の設置:12.6%
この結果から、社内・社外の双方に相談できる体制が求められていることがうかがえます。
ここでは、外部相談窓口を活用する主なメリットを紹介します。
出典:アカルク「LGBTQ+有職者1万人調査 SOGIハラ/アウティングの実態2024」
専門家が対応できる
外部相談窓口では、ハラスメント対応に関する知識や経験を持つ専門家が相談に対応します。
相談内容を丁寧にヒアリングし、状況に応じた対応方法や企業として取るべき対応について専門的な視点から助言を受けられるため、相談担当者の負担軽減にもつながります。
また、複雑な事案や判断が難しいケースにも対応しやすく、適切な初動対応につなげられる点もメリットです。
客観性・匿名性を担保できる
社内窓口では、「上司が担当者だから相談しづらい」「相談内容が社内に広まるのではないか」と不安を感じる従業員もいます。
特にLGBTQ+に関する相談では、自身の性的指向や性自認が社内で知られてしまうことを懸念し、相談をためらうケースも少なくありません。
外部相談窓口であれば、企業から独立した立場で相談を受けるため、相談者は安心して話しやすくなります。
また、第三者の視点で状況を整理・判断できることから、公平性や客観性を確保しやすい点もメリットです。
SOGIハラスメントなど専門性の高い相談にも対応しやすい
SOGIハラスメントやアウティングなど、性的指向や性自認に関する相談では、一般的なハラスメント対応に加えて、LGBTQ+やダイバーシティに関する知識も求められます。
相談担当者の理解が十分でない場合、意図せず相談者を傷つけたり、適切な対応ができなかったりすることも多いです。
LGBTQ+に関する知識を持つ外部相談窓口であれば、当事者の状況や背景に配慮しながら相談を受けられるため、相談者が安心して利用しやすい環境を提供できます。
また、企業に対しても、適切な対応方法や再発防止策について専門的なアドバイスを受けられる点がメリットです。
実効性のあるハラスメント相談体制を構築するには
ハラスメント相談窓口は、設置することがゴールではありません。
相談窓口の運用ルールを整備するだけでなく、相談担当者や管理職への教育を継続的に行い、組織全体でハラスメント防止に取り組む必要があります。また、SOGIハラスメントやアウティングなど、専門的な知識が求められる事案にも適切に対応できる体制づくりが重要です。
アカルクでは、LGBTQ+に関する豊富な知見をもとに、ハラスメント相談体制の構築支援や管理職・相談担当者向け研修、DEI研修などを通じて、多様な人材が安心して働ける職場づくりをサポートしています。
LGBTQ+に関する社外相談窓口の導入をご検討中の方は、制度の概要や導入メリットをまとめた資料をご用意していますので、ぜひご活用ください。



