「部下が会議で積極的に意見を言ってくれない」
「チーム内での報連相が少なく、わからないことを質問しにくい」
従業員や部下、チームメンバーが受け身になる背景には、「心理的安全性の低さ」が関係していることも多いです。
心理的安全性とは、誰もが安心して発言や相談ができる状態のこと。特定の属性に限らず、すべての従業員に関わる職場全体の組織課題です。
なかでも、不安や孤立を感じやすいマイノリティの従業員(LGBTQ+や障害のある人など)にとって、心理的安全性の有無は働きやすさに強く影響します。
そこで本記事では、心理的安全性が低い職場の問題点や企業の改善事例をまとめました。
- 心理的安全性とは?
- 心理的安全性が低い職場が抱える4つの不安
- 自社が「心理的安全性の低い職場なのか」を測定する方法
- 心理的安全性を高めるための4ステップ
- 心理的安全性を高めて成果を出す企業の事例
改善の具体的なステップも紹介しているので、導入時の参考にしてみてください。
心理的安全性とは?特徴や必要性
心理的安全性(psychological safety)とは、「組織において、自分の意見や気持ちを安心して発言できる状態」のことです。
たとえば、ある従業員がプロジェクトの改善案を思いついたとします。
「自分がこのアイデアを伝えても、上司やメンバーはきっと拒絶しないだろう」と確信ができる。これが、心理的安全性が高い職場です。
一方、心理的安全性が低い職場では、自分のアイデアを話すと、
- 「馬鹿げている」と否定されるかもしれない
- 「面倒な案を出すな」と怒られるかもしれない
- 「改善を促すなんて、このチームのやり方を否定しているのか」と批判的に捉えられるかもしれない
といった悪いイメージが浮かび、発言をためらってしまいます。
心理的安全性が低い職場では、社員のモチベーションが低下し、パフォーマンスにも影響が出ます。
社員が安心してリスクのある行動を取り、企業の成長につなげるためにも、心理的安全性の向上は重要です。
心理的安全性が低い職場が抱える4つの不安
「心理的安全性が低い」とは具体的に、以下4つの“不安”を抱えている状態を指します。
- 無知だと思われる不安
- 無能だと思われる不安
- 邪魔をしていると思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
無知だと思われる不安
上司や先輩、同僚に質問しようとした際、「そんなこともわからないのか(無知だ)」と思われるのではという不安です。
この不安があると、質問や確認を遠慮しがちになります。その結果、ミスや事故が起こりやすくなります。
無能だと思われる不安
仕事で失敗したときに、「そんなこともできないのか(無能だ)」と思われるのではという不安です。
無能だと思われたくない従業員は、積極的に挑戦できなくなります。それだけでなく、失敗を隠すなど、小さなミスが深刻化するリスクも高まります。
邪魔をしていると思われる不安
意見を述べることで、「忙しいのにそんな話をするな(邪魔だ)」と思われるのではという不安です。
この気持ちが強いと、改善案を出せなくなります。その結果、組織の成長が停滞しやすくなります。
ネガティブだと思われる不安
会社や組織のためを思って意見したことで、「会社を批判している(ネガティブだ)」と思われるのではという不安です。
批判されることへの恐怖から、職場の和を重視しすぎて発言しにくくなります。
ただし、心理的安全性とは、これら4つに限ったものではありません。一般的には「対人リスク」そのものを指す概念です。
たとえば、
「性的指向についてカミングアウトするのが怖い」
「障害について理解してもらえないかもしれない」
など、職場が安全だと思えないのも、心理的安全性が低い状態だといえます。
【チェックリスト】心理的安全性が低い職場に見られる“サイン”
心理的安全性が担保されているかどうかは、実際に調査しなければ正確にはわかりません。
ただし、以下のような兆候が見られる場合は、1つのサインとして捉える価値があります。
1. 会議で沈黙が続く
・発言者がいつも同じ
・上司が話したあと、誰も異論を出さない
・決定に対して「特にありません」が常態化している
2. ミスや問題の報告が遅い
・トラブルが後から発覚する
・問題が重大になるまで上層部に共有されない
・「言ったら怒られる」という空気がある
3. 質問が少ない
・新人が質問しない
・「わかりました」と言うが理解が浅い
・確認よりも自己解釈で進めてしまう
4. 雑談が減る・本音が出ない
・表面的な会話のみになっている
・上司がいると空気が変わる
・Slackやチャットが業務連絡だけになっている
5. フィードバックが一方向
・上司だけが評価している
・部下からの意見が出ない
・改善提案が少ない
6. チャレンジが減る
・無難な提案ばかりになる
・前例踏襲が続く
・新しいアイデアが出ない
職場の心理的安全性を測定する方法
職場の心理的安全性は、以下のような方法で測定できます。
- アンケートで数値化
- 1on1や面談での定性ヒアリング
- 会議の観察
- 離職率・エンゲージメントとの相関確認
アンケートには、エドモンドソンの7つの質問(※)が活用できます。
<アンケート項目例>
- あなたがこのチームでミスをすると、批判されることが多い
- このチームのメンバーたちは、困難な課題も提起できる
- このチームのメンバーたちは、異質なものを排除するときがある
- このチームなら、安心してリスクをとることができる
- このチームのメンバーには、助けを求めにくい
- このチームには、私の努力・成果をわざと無下にした仕事をする人はいない
- このチームのメンバーと仕事をすると、私のスキルや才能は評価され、組織で役立てることができる
こうした設問に5段階評価で答えてもらうことで、部署やチームごとの傾向が見えます。
また、1on1や面談での定性ヒアリングでは、「ミスを報告しやすいか」「相談相手がいるか」など、本音を引き出すことが重要です。
会議では、発言者の偏り、上司のリアクション、異論が出たときの空気などを観察します。
そのほか、特定の部署だけ離職率が高い、若手の退職が集中している、エンゲージメントが低いといった傾向も重要な指標です。
※エイミー・C・エドモンドソン氏は、ハーバード・ビジネス・スクール教授。心理的安全性の概念を提唱した研究者として知られる。
心理的安全性の低さを放置すると起きる“経営リスク”
心理的安全性の低さが悪影響を及ぼすのは、社員のモチベーションやパフォーマンスだけではありません。
特に建設や土木、医療など、人命にかかわる業界では、取り返しのつかない重大事故につながるリスクもあります。
航空機が立て続けに墜落。背景に「懸念を共有しにくい環境」
2018年10月29日と2019年3月10日、半年足らずの間にボーイング737MAXが2度の墜落事故を起こしました。
事故の原因は、自動失速防止装置(MCAS)の誤作動。問題が起こった背景の一因に、“組織内で問題や懸念を率直に共有しにくい環境”がありました。
「誤作動の問題を認識していた従業員がいたものの、声をあげることをためらった結果、重大な事故につながったのではないか」という専門家の意見が多く挙がりました。
失敗や疑問、リスクへの懸念を率直に話せる環境でなかったことが、このような事故を招いた可能性があるとの指摘もあります。
出典:SPRING SAFETY「Learning from Failure: A path to psychological safety」
職場の心理的安全性を高める5つのステップ
職場の心理的安全性を高めるためには、以下の5ステップが有効です。
- STEP1:現状を可視化する(診断)
- STEP2:上司のリアクションを変える(研修)
- STEP3:制度を整える(改革)
- STEP4:マイノリティ視点を組み込む(文化醸成)
- STEP5:定期測定と修正をする(継続改善)
STEP1:現状を可視化する(診断)
- アンケートの実施
- 他指標(離職率・エンゲージメント)との比較
- 会議の観察
完全匿名のアンケートを実施し、部署別に集計します。自由記述欄で出てきたキーワード(「忙しそう」「空気が重い」など)の分析も重要です。
あわせて、離職率やエンゲージメントスコア、会議の様子なども確認します。
STEP2:上司のリアクションを変える(研修)
- 研修の実施
- 失敗を共有する風土づくり
研修を通して、上司のリアクションを変えることも有効です。
否定的な言葉を避ける、即断即決を控えるなど、上司の姿勢次第で組織の空気は変わります。
また、上司が意識的に失敗談を話すなど、リーダーが弱さを見せることも効果的です。
STEP3:制度を整える(改革)
- 1on1の設計
- 評価制度の見直し
月1回30分の1on1を導入する、評価項目に「挑戦」を組み込むなどが挙げられます。
制度から見直すことで、意識だけでは変えにくい部分にもアプローチできます。
STEP4:マイノリティ視点を組み込む(文化醸成)
- 差別発言ゼロポリシーの明文化
- 無意識バイアス研修の実施
悪気がなくても、無自覚の差別的発言によって、職場の心理的安全性が損なわれるケースは少なくありません。
特にLGBTQ+や障害の有無など、マイノリティ視点が欠けていることで、相手を萎縮させてしまう場合があります。
こうした状況を防ぐために、「いかなる差別も許容しない」と明文化する、通報ルートを明確にするなどの対応が重要です。
また、当事者の声を紹介するなど、研修を通して理解を深める取り組みも効果的です。
STEP5:定期測定と修正をする(継続改善)
- 半年ごとの再アンケート実施
- 前回との差分分析
- 部署やチーム別のフィードバック
施策は実行するだけでは十分とはいえません。効果が出ているかを、再アンケートなどで定期的に確認しましょう。
効果が見られない場合は、外部コンサルタントの支援を受けることも検討し、施策の質を高めていきます。
職場の心理的安全性向上で成果を出す企業の事例
最後に、職場の心理的安全性を高めることで結果を出す企業を紹介します。
Googleは、心理的安全性の取り組みで高く評価されている企業の1つです。定期的なチームミーティングの実施や、フィードバック・ディスカッションの時間確保のほか、「20%タイム」を導入しています。
20%タイムとは、勤務時間の一定割合を、自身の関心あるプロジェクトに充てる制度。
従業員が興味のある分野に挑戦する時間を会社側が設けることで、失敗を恐れずに挑戦しやすくなります。その結果、革新的な提案が生まれたり、自律性が育まれたりします。
そのほかにも、建設的なフィードバックを行うための研修を実施するなど、従業員が安心して働ける環境づくりを推進。エンゲージメント向上やイノベーション創出にもつなげています。
出典:leaderfactor「Google and Psychological Safety」
心理的安全性の改善は、“伴走型支援”で加速する
上ではGoogleの例を紹介しましたが、すべての企業が20%タイムのような目新しい施策を打つ必要はありません。実際、Googleのように20%もの時間を確保するのが難しい企業がほとんど。導入する場合でも、5%や10%程度にとどめているケースが多いです。
それでもハードルが高いと感じる場合は、1on1ミーティングを導入する、小さな研修会・勉強会を開くといったところからでも十分です。
たとえば弊社アカルクでは、現状診断から研修設計、制度づくりのサポートまで、一貫して伴走支援を行っています。
「まずは相談してみたい」という段階でも構いません。職場環境づくりにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
執筆者:佐藤ひより
大手メーカーの海外営業職を経験後、2018年にライターとして独立。フリーランスとして多様な価値観や働き方に触れる中で、「一人ひとりが自分らしく生きられる社会」に関心を持つように。現在は、キャリア・ビジネス・ライフスタイル分野を中心とした記事制作に携わっています。


