近年、企業におけるDEI(多様性、公平性、包括性)の重要性がますます認識される中、アメリカではトランプ政権の影響を背景に、一部の企業がDEI施策(特にLGBTQ+に関する施策)を縮小したり、見直したりしていることが報道されています。
一方、先月タイではついに結婚平等法が施行され、アジアでは台湾、ネパールに続き3か国目、東南アジアでは初の同性婚法制化が成し遂げられました。

前編では、トランプ大統領が多くのDEIやLGBTQ+保護に関する取り組みを終了させる大統領に署名したことをきっかけに、DEI方針を転換した企業・DEI方針を継続する企業をそれぞれ取り上げました。そしていずれにしても、「差別や偏見のない社会を目指す」ことは当然として継続するであろうとの予測と弊社の姿勢をお伝えしました。
後編では、同性婚法制化に湧くタイの状況をお伝えするとともに、日本企業が昨今の海外情勢を受けとめる際のポイントをご紹介します。

アメリカとタイ、日本と関係の近い国々の動向を通し、日本企業がこれからどのようにLGBTQ+関連の施策に取り組んでいけばよいか、一緒に考えていきましょう。

 

タイの情勢

トランプ大統領が「この世には男と女しかいない」と演説し大統領に再就任してからわずか3日後の2025年1月23日、タイでは「結婚平等法」が施行され、同性同士も法的に正式に結婚できるようになりました。結婚平等法の条文では「男性」「女性」ではなく「個人」と表現されているほか、同性同士でも税金の控除や相続、養子縁組などの権利が認められるようになっています。
タイ政府によると、初日の婚姻登録はバンコク都で661組、タイ全土では1,832組に上ったそうです。(2025年1月23日時点)
施行当日、首都バンコクにある大型ショッピングモール「サイアム・パラゴン」で「マリッジ・エクイティ・デー」という同性婚実現を祝うイベントが実施され、300組近くの同性カップルが参列しました。

このイベントに登壇したタイのセター前首相は、「最近就任したある大きな国の指導者が、自国には性別が2つしかないと明言しました。私は衝撃を受けました。私たちは、彼らよりも心が広い国だと信じています」とスピーチし、聴衆を湧かせたようです。

しかし、昔から性的に寛容だといわれ、トランスジェンダーが活き活きと暮らし、性別適合手術のメッカであるタイでも、同性婚法制化への道のりは決して平たんなものではありませんでした。
最初に同性婚法案が提出されてから12年、状況が一進一退する中、プライドパレードやデモなどで根気強く声を上げ続けた当事者やアライのおかげで、世論は段々と同性婚容認へと傾いていきました。
そして2年前の2023年の総選挙では多様性を求める若い世代から大きな支持を集めた革新系の政党が同性婚実現を公約に掲げ、与党となりました。そこから法整備が一気に進み、ついに法制化へと至ったのです。

ただし、タイではいまだに、

  • 性別適合手術を受けたあとも法律上の性別変更が認められていない
  • 手術前の場合は徴兵が免除とならないケースが多い
  • 観光・娯楽・美容・小売業など、特定の業種以外での雇用の場は限られている

など、トランスジェンダーに関する制度上や慣習上の困難が残っています。今回の同性婚合法化を機に見直しが進むことが期待されています。

 

タイでは今

「結婚平等法」施行後、タイでは祝福ムードがあふれ、バンコクの至る所でレインボーフラッグや6色レインボーの装飾を見ることができます。冒頭の写真は、ショッピングモール「ターミナル21」に展示されていたものです。

タイは「ほほえみの国」とも呼ばれるように、もともと他者の幸せを願う気質・文化の根付いた国と言われています。当事者かそうでないかに関わらず、その自然な「幸せな人が増えてほしい」という思いが市民活動を押し上げ、法制化へと導いたのではないでしょうか。
この出来事を誇り祝っている人々が巷にあふれているようで、先述のイベントが実施された会場に残されたボードには「隣人の幸せが誇らしい」というメッセージも見られました。

 

日本企業における今後のDEI施策の方向性

ここからは、これまで見てきた他国の状況を分析し、日本が今後取るべきDEI施策の方向性を考えていきましょう。

 

日本とアメリカの違い

前回のブログのように丁寧にその実態を見ていくと、アメリカ企業のDEI施策のうち、見直されているのはE(equity、公平性)にかかるアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)が中心です。
「特別枠」が行き過ぎているというのがその理由とされますが、ある一定程度女性の管理職比率などが向上し、LGBTQ+の存在も可視化されているアメリカと違い、日本は未だ男性中心・性的マジョリティ前提の社会構造となっており、格差をまだまだ埋められていないと言えるでしょう。アメリカに比べ、日本はDEIの認識や取り組み自体が発展途上です。

※アファーマティブ・アクション:性別や人種等の理由で差別を受けている人たちに対する、格差是正のための取り組みのこと。具体的には、教育や就業などで一定の枠を設け優遇するなどといった方法が採られているが、逆差別なのではないかという批判も受けている。

また、そもそもDEI推進を企業で進めていく目的は、多様な背景や視点を持つ人々が集まって新しい価値を生み出すことにあるのではないでしょうか。

アメリカと異なり、日本は世界でも類を見ない速度で少子高齢化が急激に進んでおり、労働人口の減少に歯止めがかからないため、属性に関わらず多様な人にパフォーマンス高く能力を発揮してもらう必要があります。

このように、アメリカと日本では置かれている状況が大きく異なるのです。
以上のことから、日本企業ではアメリカの情勢に左右されることなく、意思や戦略をもってDEIの取組みを進めていくことが大事だと思われます。

 

日本企業におけるDEI施策の方向性

経済同友会の新浪剛史代表幹事は、アメリカの動きについて「DEIが無くなるという動きではない」と指摘した上で、「日本では、DEIの取り組みが始まったばかりで、ますます重要になるという認識を持つべきだ。その恩恵を受けてイノベーションを進めるべきだ」と発言しています。

DEI推進・多様性尊重を掲げてはいるものの、海外の動向を意識しすぎたり、反対派の非難を恐れ、その方針を容易く転換するようでは、多様なステークホルダーから「そもそも世の中のトレンドや他の企業の流れに同調しただけで、本来的にはその重要性を認識していなかったのではないか」と判断され、見放されてしまうかもしれません。

アメリカとタイ、それぞれの現在のDEI推進に対する姿勢の違いは、もちろん国家規模や宗教、DEIに関する取組の進度(アメリカでは既に全州で同性婚ができるなど、より進んでいるからこそ揺り戻しが来ているという考え方もあります)の違いもありますが、当事者以外の人がどこまで真剣に自身と直接的に関わりのない事柄について向き合い、困難を解消しようと動くかという差であると見ることも出来るでしょう。このような、性的マイノリティの人たちを理解し支援する人々のことをアライと呼びます(詳細は以前のブログ参照)。

日本の状況が今後どちらのようになっていくかはアライ次第だともいえ、そのアライが増えるか否かの鍵の一つを握るのは、企業の姿勢です。日本企業がどのようにDEI、そしてLGBTQ+に取り組んでいくかによって、多様な人が働きやすく、生きやすい社会になっていくかどうかが決まるのかもしれません。

 

まとめ

今後も日本企業のDEIは揺れ動く世界情勢の影響を受けることが予想されますが、皆さまの会社はいかがでしょうか?

もしかしたら本記事を読んでくださっている方の中には、社内推進を進めている方、検討中の方、当事者の方と様々な方がいらっしゃるかもしれません。
大事なことは外部からの圧力に左右されず、企業独自の価値観に基づいた推進を実施すること、そしてもし今の企業方針そのものに違和感がある場合は、なぜ自社は多様性を尊重するのかを今一度問い直し、その価値をミッションやヴィジョンに落とし込み、社内外に発信する時期に来ていると言えるのではないでしょうか。

本記事では前後編に渡ってDEIやLGBTQ+に関する国際情勢を伝えました。前編からの繰り返しにはなりますが、どのような政権下であっても、この世界にはLGBTQ+をはじめとする様々な人が暮らしています。
弊社では、ダイバーシティ推進をはじめ、LGBTQ+の人も働きやすい、生きやすい社会を作っていくことをミッションとしているので、世界や社会で起きているリアルな情報や声は伝えつつも、今後も信念をもって人と組織を明るく照らしていけるよう邁進していきます。

株式会社アカルクは、ダイバーシティ推進のための取り組みをはじめ、LGBTQ+の方がどのような事に配慮が必要なのか、多様性を意識した採用コーチングから、入社後のガイドラインの策定、制度構築、運用を一気通貫で行う人事コンサルティング、キャリア支援といったプロデュース事業を展開しています。
もし社内の今後のDEI推進に不安がある、自社の方針に疑問を感じている、海外にも拠点があり国内の推進方針とのギャップがあるなどのお悩みがある場合、まずは相談でも構いませんのでいつでもお声掛けください。
LGBTQ+に対応する制度の策定をしていきたいといった課題がある人事担当者や採用担当者の皆さまも、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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